ハーベストムーン

粋なリクエスト

ルーナ探偵事務所慰安旅行も無事終わりを告げた。


二人は事務所へと帰宅した。

玄関のドアがバタンと閉まった瞬間、リュクレーヌは旅行鞄を放り投げ、普段は客用であるはずのソファに横になる。


「あーーーーっ!疲れた!」


「お疲れ様。どうする今日はゆっくり休む?」


「あぁ……今日は、じゃなくて今日からだけどな」


今日から。その言葉の意味はフランにも察しがついた。


「はは、またしばらく暇になるのかなぁ」

「まぁ、気楽にいこうぜ。俺達が忙しいよりも暇な方がよっぽど幸せなこった」


依頼が無いという事は事件がない。

警察も軍隊も探偵も暇であれば街が平和である証拠。これほど喜ばしい事は無い。


「それもそうだね。」


マスカという兵器がのさばっていたロンドンの街は、リュクレーヌとフランが船旅から帰ってきた後、どこか大人しくなったような気がした。

気のせいかもしれないが、フランの第六感は、その様に解釈したのだった。

リュクレーヌはというと、横になりながら何か思いついたように目を見開き、上体を持ち上げた。


「さぁて、今日の晩御飯は何かな?高級料理もいいけど、やっぱり温かい手料理が一番だよな!」


「そうだなぁ……特に考えてなかったけど……リュクレーヌ、何か食べたい物ない?」


「うーん……あっ!あるある!」


「何?」


他愛のない夕食の献立の話。随分とご機嫌な調子でリュクレーヌは両手を合わせた。


「フランの食べたいものが食べたい!」


太陽のように眩しく歯を見せながらリクエストをする。


「……しょうがないなぁ」


少しだけ照れくさくも、嬉しいため息を吐いて、フランはキッチンの方へと向かおうとした。

ところが、その時だった。

ドンドン!とまるで大太鼓を叩いたように、強いノックがドアを鳴らす。


「誰だろう?」


「えらく、乱暴な訪問だな」


これほど強い音を立てて訪れる客など初めてだった。


「どうしよう……泥棒だったら」


フランは一抹の不安を覚え、怯えた。

だが、リュクレーヌはそんなフランに「何を言っているんだ」と鼻を鳴らした。


「そんな訳無いだろ。泥棒が玄関から入ってくるか?」


「あぁ、そっか」


「まぁ、泥棒じゃなくて強盗ならあり得るけどな」


「ダメじゃん!」


白昼堂々、それも玄関から来訪の暴漢であれば泥棒ではなく強盗だろう。


だがフランにとっての問題は細かい言葉の言い回しではないのだ。

それでもリュクレーヌは、ボリュームを増すノックが鳴るドアの方へ向かって行った。


「大丈夫だって。はーい、今出まーす」


「ちょっと!」

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