富豪への憑依

「……まず、パイラート船長をはじめスタッフたちはマスカの仮面を契約したが、まだ憑依をしていない状態の人間だった。スタッフ側の殺人は狂言だった訳だ」


「ほう」


「第一の死、船長の死は、船長室での自殺だ。あらかじめメシスから貰っていた俺のナイフを自分の胸に刺した。そして、鍵をアクリウスからディラ、シープと手渡していた。鍵を持っているシープが131号室の部屋を掃除した時にベッドに仕込んで如何にも見つけたかのように装ったんだろう」


「では、第二の死、ディニー・アンキューラさんについてはどう考えています?停電の時、傍に居たのは貴方達たちだけだったでしょう?」


「何でそれを知っているんだ?あぁ、知っているはずだよな。この殺人のトリックはとても簡単なものだ」


「簡単?」


「とぼけやがって。アンタが自殺をした後、アンキューラさんに憑依した。停電時、隠し持っていた仮面で別の死体へと憑依した。すると、停電が開けると、アンキューラさんの死体が転がっている。当然の事だろう。そして、次の憑依先はグロリア・カルティスの躰だろ?」


「では、カルティス様はどうやって殺されたのですか?」


「アンキューラはじめ、富豪側の人間たちはあらかじめ殺されていたんだよ。そう、外傷が残らない、溺死という形でな……この富豪たちの妻や愛人たちの死体が、先日の沈没事故で見つかっているんだよ。彼らも死んでいた。だが、死体は見つからなかったうえに、この船に乗っている」


つまり、富豪たちは最初から死体の状態でこの船に乗せられていた。


「マグネティカが一日中船酔いのせいで、部屋で寝ていたって言うのも、部屋に死体の状態で寝かされていたって事だ。だから、アンキューラの時と同様の方法で魂を移して、カルティスの死体が発見された後は、マグネティカに憑依していた」


「なるほど。ではスタッフたちの殺人は?わざわざ彼らが死ぬ意味は?」


「言っただろ。狂言殺人──即ち自殺だって。彼らは仮面を被った契約者だ。オークションで落札した富豪たちの躰に憑依するためには元の躰を殺さなければならない。恐らく、腹を切ったのだろう」


リュクレーヌは一息置いて、話を続けた。

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