平穏の訪れ
「……え?断ったよ」
「断った!?なんで! 『ガーディアンにでも何でもなってやる!』って、言ってたのは──」
「いや、あれは喧嘩する作戦で、そう言っただけで別に本気じゃ……」
そもそも、喧嘩するのはリュクレーヌの作戦のはずだ。
まさか、作戦の中での口論を本気にされていたと言うのか?と、フランは困惑する。
状況と状態を察したリュクレーヌは、慌てていた表情をみるみるうちに綻ばせた。
「……もしかして、ちょっと心配してた?」
フランは、少しだけニヤっとしながら聞いてみる。
「そっ!そんな訳ないだろ!アレは作戦!俺も知ってたし!」
「ふぅん……」
分かりやすいなぁと思いながらフランはにっこりと笑った。
「なんだよ」
「別に。まぁ、僕もこの事務所、結構気に入っているんだよね」
さらりと出てきた誉め言葉に、リュクレーヌが目をぱちくりとさせる。
フランはそんなリュクレーヌの方をじっと見る。
「それに今回は、リュクレーヌと一緒に、ファントムに一泡吹かせてやったし、気分が良いんだ」
「お、言うようになったじゃねぇか」
自分を刺して、混乱させようとし、挙句の果てには事務所に盗聴器までしかけていた黒幕を見事に罠にはめた。
フランとしても、リュクレーヌとしても最高に気持ちのいい事だろう。
「これからは、マスカをどうにかするだけ……かな」
「……いや、ファントムも完全に封印しているわけじゃないからな」
「完全に封印する方法があるの?」
「今はまだ分からない」
ファントムは、今こそルーナエの躰を借りているが、元は悪魔であり実体はない。
ルーナエごと祓おうとしたところで、実体のない悪魔の魂がこの世のどこかを彷徨って、また新たな人間に宿り、マスカを作るだろう。
今よりも更に強い魔力で、彼を永遠に封印する方法があって初めて人類は勝利をおさめるのだ。
尤も、その方法は誰にも分からないが。
「だけど、その方法を探す……しかないな」
そう、ないのなら探すなり、作るしかないのだった。
「けど、とりあえず、直近の危機は去ったって事だ!」
しかし、状況は上向きだ。
ファントムが捕まり、新規の契約は無い。
新たなマスカが街を蔓延る事は無い。
乖離前のマスカを見破る必要も一月後にはなくなるだろう。
「それはいいんだけど……つまり、また暇ってこと?」
フランも察しが良かった。
自分達の仕事が無くなるという事は分かっていた。
「ははっ。あぁ、そうだ旅行でもいこうか?」
「それも良いかもね」
それでも、とりあえず今は平凡な冗談を言う程に心が軽い。
この後ファントムの遺した置き土産が、更なる悲劇を生むことなど想像もしていてなかったから──
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