スタージェンムーン
空と海と船旅と
スカイブルー。
文字通り空の青色をそのまま映したような水上を、ナイフで切るかのように船は進む。
散るしぶきは雲のように白く、天と地が一体になったような世界はどこか不思議な空間だった。
船はロンドンの街から遥か南へ進み、大西洋の沖を我が物顔で遊泳していた。
まるで、海の王者である、巨大なサメのように。
「海だー!」
リュクレーヌとフランは船上デッキにて潮風を浴びながら、空色と白で彩られている景色を楽しんでいた。
汗ばむ夏という事もあり、二人共服装も軽い物になっていた。リュクレーヌに至っては、いつものスーツやコートは見る影もなく、派手な花や植物をこれまた派手な原色で彩ったシャツを着ていた。
アロハシャツだ。
この旅の為に卸売りの友人に頼み、わざわざ仕入れた。
普段の頭を使う探偵業は見る影もない。
完全に行楽モードである。
ただ、それはリュクレーヌだけであり、フランは緊張した表情をリュクレーヌに向ける。
「いいの?こんなに呑気に旅行なんてしていて」
「あぁ、いいの、いいの。ファントムも捕まったし、だいぶ楽になっただろ」
「だけどさ、街でマスカが暴れないって保証はないよ」
「大丈夫だって!それはアマラ軍の仕事だし。それに、たまには息抜きしないと、やっていけないだろ?」
「そうだけどさぁ……」
リュクレーヌの言っていることは何も矛盾していない。
ルーナ探偵事務所の仕事は乖離前のマスカの捜索だ。
ファントムが拘束されて一ヶ月経った今、乖離前のマスカは居ないはずだ。
案の定、事務所を訪れる依頼人など居るはずもなく閑古鳥が鳴いていた。
フランが考え込んでいると水しぶきを上げてバシャンと飛び込むような音がした。
船が水を切るものとは違う。
飛び込んだ主はすぐさまゴムのように艶めく表面の頭を出し、姿を現した。
「おい見ろよ!イルカだぞ!かわいいなぁ」
リュクレーヌはイルカが好きなようだ。
小動物を愛でるような表情をして両腕で頬杖をつき、ご満悦だった。
「はぁ……」
一方、フランは、海底よりもよっぽど深いため息をついた。
──どうしてこんな事になってしまったのだろう?
旅行自体は楽しいものだ。
しかも、高級クルーズ船で海を渡るという豪華なものと来た。
最新の技術を駆使して作られた船の中にはプールにカジノや劇場といった娯楽施設が備わっており、出てくる料理は高級食材のオンパレード。
当然、部屋も三ツ星ホテルを彷彿とさせる、大富豪御用達といったプランだ。
つまり、一生に一度味わえるか分からないほどのバカンスだ。
決して嬉しくないわけではない。
ただ──
「今じゃなくても、よかったのに……」
ぼそり、と呟く。
リュクレーヌは声の方を振り向いた。
「何か言ったか?」
「何でもないよ」
特に責めるような言い方をされたわけではないが、楽しんでいる彼に水を差すのは申し訳ないと考え、はぐらかした。
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