自分達のできる事

リュクレーヌがクレアの事は何も悪くないと言った。

そこのところは折り合いがつくのだろう。家族であろうと、他人。


クレアとアドミラの事は完全に分けて考えていたようだ。


尤も、自分の弟の事は自分で責任を取るなど言ってしまう男なのだが。


だが、クレアが責めていたのは、自分の存在というよりも、自分が父親を止められなかった事だった。

もっと話を聞いてあげられればよかった。

もっと、冷静でいられるようにすればよかった。


友人を傷つけるような事をする前に──


「ママなら……なんて言ったかしらね」


母親が生きていたなら、その様な父を見て何と言っただろうか。

どうして自分にはその言葉が出なかったのだろうか。

クレアは悔やむ事しか出来なかった。


そんな彼女を見て、フランは歯を食いしばった。悔やんだって仕方がない。過去はもうどうする事も出来ない。


それなら、とにかく今は──


「……僕たちのできる事をしよう」


「……懐かしいわね。その言葉」


フランの言葉に、少しだけクレアは微笑んだ。


「そうかな?」


「泣いている私にいつも言っていたわ」


クレアがアマラ軍の訓練所に所属した直後、彼女はホームシックからか毎晩のように泣いていた。


唯一の家族──父であるアドミラと離れた生活。

それは幼いクレアにとって寂しいにも程があるものだったのだ。そんな中、同世代のフランに出会った。

年が近いこともあってすぐに打ち解けたが、何よりも彼の境遇を聞いて、自分と似ていると感じた。


それなのに、フランは過去よりも今を見ていた。

いつだって、「『約束』のために頑張るんだ」といって鍛錬に励んでいた。


フランと過ごすうちに、クレアの心境も変わっていった。

あぁ、前を見なくちゃ。

過去に縋っている暇なんてここには無いんだと、クレアは腹を括ることができたのだった。


「もしかしてリュクレーヌは、フランだから一人でも大丈夫だって送り出したのかもね」


「えぇ……そう、かなぁ?」


フランは首を傾げる。肯定はできなかった。


「まぁ、とにかく!やるしかないんだよね」


「そうね。私達で、パパを……たくさんの人達を護って、ファントムを捕まえましょう!」


ようやく、彼女は首を振り、強気な笑顔を見せつけた。

絶対にこの任務は成功させる、という固い意思を感じるような。


「うん!」


そうだ。自分達が、やるべき事をやらねば。とフランも同意した。

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