奇襲とマスケット銃

予告状に書かれていた時刻は午後九時だった。


「予告の時間は……そろそろだな」


アドミラの持つ懐中時計が八時五十五分を指す。

秒針がもう五週すれば、長針が天を刺し、予告時間となる。


「総員、構え」


うかうかしている時間はない。


アドミラの指示に全員が武器を構える。

武器の種類は様々だが、重火器がほとんどだ。

流石、日ごろ鍛錬を積んでいる軍隊だけあってか、その光景は圧巻。

この場にのこのこと来ればすぐさまハチの巣にされてしまいそうだ。


「来た!」


フランがいち早く気づく。

ファントムは西からでも東からでも、はたまた北でも南でもなく、天──つまり真上からやってきた。

それも、凄まじい速度で。まるで、冥界から追放された堕天使のように。


ただ、その直下にはアドミラがいた。アマラ軍の必死の銃撃も射程距離に入っていない為、一つもダメージを与える事が出来ない。


「いきなり、私を狙う気か?」


いいだろう。とアドミラは好戦的に口角を上げた。

だが、ファントムは射程距離直前で旋回し、軍の本郡の監視場に突っ込んだ。


「!?どこに攻撃してんだ?」


監視場は本部の中でも背の高い建物だ。


「おい、あの建物!崩れるぞ!」


これほどに密集した場であれば、即座に逃げる事も難しい。

多少なりとも時間が必要だ。

監視上が崩れるとすれば、真下にいるアマラ達は巨大な瓦礫の下敷きとなってしまう。

忽ち即死だろう。


フランの頭に一つの可能性が過る。

アドミラの暗殺などハッタリでアマラ軍の大量虐殺こそが、ファントムの真の目的だったのか?


「危ない!!」


──そんな事、させてたまるか!


強い想いでフランがスチームパンク銃を握りしめると、心と共鳴するように銃は光り、マスケット銃へと変化した。

そして、何百本ものマスケット銃が監視場の下の方へと飛んでいく。


「……あれ?無事だ」


アマラの一人が、瞼を開けて、天を仰ぐ。

そこには大量のマスケット銃がバリアを作るように組み合って、瓦礫を支えていた。


「何だ!?この銃が俺たちを守ってくれたのか!」


異様な光景にアマラは大層驚く。だが、そんな暇はない。


「今のうちに、逃げて!」


ようやく場も開け、監視場まで駆けつけたフランはすぐさま彼を安全な方向へと逃がそうとする。


アマラは「あぁ!助かった」と礼を言いながら持ち場を離れた。

人が居なくなるのを確認して、フランはファントムの方をきっ、と睨んだ。


「あれ?いいのかな?」


ファントムは挑発的な態度でフランを煽る。

しかし、周りにはもう誰もいない。

危険に晒される者はいないはずだと思った。

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