何よりも許せないのは

リュクレーヌが来るとすればフランと一緒だと思っていた。

今回来たのはフラン一人だけだ。


それは、リュクレーヌが依頼を断った事を意味する。

クレアはすぐさま察して少し悲しそうに俯いた。


「ごめん。僕も説得したんだけど……」


「仕方ないわよ。彼にも断る権利は有るわ」


「だけど……」


クレアとしても、リュクレーヌが自身の意思を尊重するだろうと、どこかで分かっていたようだ。


アドミラによって、意思を、尊厳を踏みにじられたのだ。

その上、お前には頼んでないとも言われる始末。

断っても無理が無いと思っていた。

ただ、いてくれたら頼りだった──と多少なりとも思ってはいたが。


「いくら何でも、薄情だよ……」


フランは俯きながらリュクレーヌの事を非難した。

だが、クレアはそれに同調する事なく、話を切り出す。


「私ね、昨日眠れなかったの」


「え?」


フランは聞き返した。


「一晩中パパとリュクレーヌの事を考え込んでいた。こんなに眠れなかったのは初めて訓練所に来た時ぶりだったかしら……大事な任務の前日なのにね」


「……ごめん」


「謝る事ないわよ。私が勝手に考えていただけなんだから」


リュクレーヌとアドミラの事。壮絶を期した過去。

マスカが憎いのは分かる。クレアも自分の母親を殺したマスカの事は恨んでいる。


だが、アドミラのマスカを恨む気持ちが、リュクレーヌへの仕打ちを生んだ。


リュクレーヌは誰の事も殺していないのに。


マスカであり、種族が同じであれ、彼は無実だ。

彼への仕打ちはアドミラの八つ当たりでしかない。


その様な因縁があったなんて、リュクレーヌの助手であるフランも、アドミラの娘であるクレアも初耳であった。


「パパがリュクレーヌにした事は、友人として許せないわ」


クレアはハッキリと言う。

身内であろうと、いや、身内だからこそ、危害を加えた事を強く非難するように。


そう、愛している父親だからこそ、許せないのだ。


「でも、それ以上に、パパが、人を傷つけるほどに追い込まれていた事に気づけなかった私が許せない」


クレアは自分を責めた。


どうして気づいてあげられなかったのだろう。

母親を失い、唯一彼の傍にいた家族だったのに。


彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「クレア……」


その様子をフランは悲しそうに見つめる。

何も、言えない。自分の傍には既に家族が居なかったから。


「あの時のリュクレーヌ、私は悪くないって言ってたわ。けど、私は私がパパを止められなかった事が悔しくて泣いていたの」

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