君のおかげで

そんな中、リュクレーヌの方を一人の民衆が指さし、こう告げた。


「でも、この男もマスカなんだよな……」


「!」


確かに、リュクレーヌはマスカである。

この事実は公表された。


「そうだよ、自分に憑依しているから兵器にならないって言うけど、人間じゃないんだよな」


「それは……」


いつの間にか、懐疑の目は、ファントムからリュクレーヌへと向いていた。


──まずい、何を言い返せばいい?


リュクレーヌがじっとりとした冷や汗をかきながら言葉を探す。

だが──


「いいえ、彼はマスカだけど誰よりも人間らしい」


フランが、先に弁明の言葉を発した。


「確かにマスカだけど……人間じゃないけど、誰よりも強い望みを持っているんです!」


リュクレーヌは弟を救うために人生を捨てた。自分の望みの為に。


「躰が何だろうと関係ない!彼の心は……魂は、言葉一つでブレるような、アンタたちよりも、よっぽど人間らしいんだよ!」


決してブレる事の無かった真っすぐな魂を持つリュクレーヌは、何者よりも人間だ。

フランは、そう言い切った。


「フラン……」


リュクレーヌが、顔を上げようとした時、彼の前にはフラン以外にも四人の人間が立っていた。


まるで、彼を、守るように。


「あぁ、この探偵が居たから今までこの街はマスカの被害が抑えられていた」


ラルファが言う。警察と言う立場にいながらマスカの事実を知っているからこそ、リュクレーヌの功績を感じているのであった。


「こいつはずっと、マスカとファントムをどうにかしようとしていたからな」


長い付き合いのブラーチも、目の前でリュクレーヌがどれほど奔走してきたかを理解していた。


「おかげでアマラ軍としても助かっているのよ!」


アマラ軍に所属するクレアは、彼の恩恵を直に受けているだろう。

乖離で人を殺すマスカが減る事でどれほど助かる事か。


「みんな……」


ルーナ探偵事務所のおかげで、助かる命、救われる者がいる。だからこそ──


「悪く言わないでくださいね。うちの探偵を」


最後はフランが牽制するように告げた。


そしてすぐにリュクレーヌの方を向き、安堵したような笑顔を向ける。


「リュクレーヌ」


「……」


「帰ろう。お腹すいたでしょ?」


「あぁ……」


そこに居たのは、もう、いつもの二人だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る