深夜の秘密会議
◆
一八九〇年冬
ノクスルム家は資産家だった。
ロンドン郊外に立派な邸宅を構え、家族四人で暮らしていた。
双子の兄弟、ルーメンとルーナエは十四歳。
二人共、勉学の類は得意で学校でもトップを競う成績だった。
明晰な頭脳だけではなく整った顔も同じ。
だが、性格だけは違っていた。
明るく、器用故に多趣味なルーメンと、一つの事に没頭する研究者気質なルーナエ。
中身の違いだけが、彼らの中に確かにあった。
ルーメンが、ルーナエの異変に気づいたのは、二人が十五歳の誕生日を迎える前日、クリスマスイブの深夜の事だった。
「だめだよ、ファントム。やっぱり普通の人間と同じように食事ができるようにしなきゃ」
深夜、寒さからか目が覚めた際、弟の部屋から会話が聞こえた。
──ルーナエの、声?こんな時間に?
ルーメンは、気になり聞き耳を立てる。
「あぁ、確かにすぐバレてしまう……」
弟の声と知らない声。二人分の声が交互に聞こえる。
「そうそう。だからできるだけ人間らしく……ちゃんと成長できるように設定して……」
──ルーナエは、何を、誰と、話しているんだ?
途切れ途切れに聞こえる単語だけでは何を話しているのかも分からない。
好奇心から、ルーメンは暫くの間、聞き耳を立てていた。
だが、全く何の話か分からない会話。最後は結局ルーナエの「おやすみ」で締めくくられた。
ルーメンも、半分眠りにつきかけていた。それに気づいたのは会話が終わって十五分くらい経った頃だった。
──まずい、こんなところで寝たら風邪を引く。
自室に帰ろうとした時だった。
「成長なんて、必要ないのになぁ」
ルーナエではない声がした。
大きな声では無かったが、まるで嘲笑うような口調は、妙に耳につく。
──どういう事だ?
帰ろうとした足を止め、もう一度、ルーナエの部屋に聞き耳を立てた。
「この仮面を付けて憑依した者はすぐに死ぬと言うのに」
──仮面?彼は人を殺す能力があるのか?
情報が少ない中、もう一つの声の主の存在は危険である事だけが分かる。
「間抜けな奴め。僕に騙されているとは知らずに」
騙されている間抜けな奴というのは、ルーナエの事だろうか?
だとすれば、導かれるのは───ルーナエは、騙されて人殺しに加担しようとしているという、最悪な答えだった。
──ルーナエを、止めないと!
兄は、ただ、弟の身を案じた。
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