大切な話

翌朝、目を覚したルーメンはいの一番にルーナエの部屋を訪ねた。


「ルーナエ!」


「何?兄さん」


休日の朝だというのに、ルーナエは身なりを整えていた。一方ルーメンは寝間着のまま、寝癖を付けており、対象的な姿である。


だが、そんなことはどうでもいい。

とにかく急がないといけない。と、ルーメンはルーナエに真剣な眼差しを送る。


「……大事な話をしたい」


「話?改まってどうしたんだよ」


「頼むから!誰も、呼ばずに二人だけで話をさせてくれ!」


二人だけ、と言う条件を出した。これで昨日の会話の相手は来ないだろう。

最も、条件を呑めばだが。


「……分かった。いいよ。晩御飯を一緒に食べよう」


少し間はあったか、ルーナエは案外すんなりと承諾した。

話をするのは夕飯時。

たしかに、今夜は両親共々仕事の都合で外出しているため都合が良かった。


「誕生日だから母さん、ご馳走を用意しているみたいだよ」


にこりとルーナエが微笑む。


「そうか。それは楽しみだな」


いつもの弟と、何も変わらない。

人殺しに加担しているかもしれないなんて、微塵も思えなかった。


思いたく──なかった。

 


「それで、話って何?」


約束の時間は、あっという間に来てしまった。

燭台にはずらりと並んだ晩餐。作り置きだが、手の込んだ料理を二人で囲む。


ルーメンはナイフとフォークをぐっと握り締めて、ルーナエの方を見た。


そして、口を開いて、本題を切り出す。


「昨日、お前が夜中に誰かと話を聞いていたのを、聞いてしまったんだ」


「夜中?気のせいじゃない?」


「気のせいじゃない。ちゃんと聞いたよ」


「だったら寝言かもね」


「あんなにハッキリした寝言があってたまるか。それに、確かにもう一人誰かいた。会話だったよ」


何かを誤魔化そうとしているのがすぐに分かった。

彼が嘘をつく時は、一度たりとも目を合わせない。


だからこそ何度だって食い下がる。


するとルーナエはしつこいなと言いたそうに、ため息をついた。


「……どうだっていいだろ?兄さんには関係ないよ」


「人殺しに加担するかもしれないのに?」


恐ろしい可能性を一つ提示する。

するとルーナエはようやくルーメンの目を見つめた。


「人殺し……?ちょっと待って、何を言ってるの?」


「お前が寝たあと、話し相手が言っていたんだよ。仮面を付けて憑依した奴は死ぬって」


「そんな……兄さん、冗談だろ?」


予想通りだ。やはりこの事はルーナエも知らなかった。

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