そして皆騙される

──この悪魔は、何を言っているんだ?


「助手くん、ずっと僕を君だと思っていたよ?」


言葉の『あや』だった。

自分はリュクレーヌだと偽り、フランを騙した。

フランもそれをまんまと信じ込んでいただろう。

ファントムには自信があった。


いや、自信なんて主観的なものではない。確信だ。


あの時のフランの顔。

それは確実に、信じて慕っていた者に裏切られた時の顔だった。


絶望の淵に落とされる人間の顔を見るのは、ファントムにとって最高の快楽だからこそ、彼は分かっていた。


フランがまんまと騙されていることを。


「それがなんだって言うんだ!」


「さぁ?どうだろうね」


ニヤリと笑うとファントムは窓から去っていってしまった。


そう、騙されているのはフランだけでは無かった。

もう一度、乱暴に音を立ててドアが開かれる。


「ラルファさん!?」


姿を表した客人はラルファ刑事と大勢の捜査官だった。

だが、様子がおかしい。

いつも険しい顔が今日はさらに険しい。


それに、依頼であればわざわざ捜査官を引き連れてくるだろうか?


「リュクレーヌ・モントディルーナ!」


フルネームで呼ばれる。

リュクレーヌが困惑する間もなく、ズカズカとラルファは近づく。


「逮捕だ!」


そして、リュクレーヌの両腕に、手錠をかけてしまった。


「えっ!?ちょっと!」


状況がわからない。いきなり逮捕だなんてどういうことだと。


「一体何があった?」


ブラーチもラルファに理由を聞いた。


「白昼堂々、自分の助手をナイフで殺傷した罪だ」


「なっ!俺がそんな事する訳ないでしょ!」


かけられた容疑はフランの殺害。

そうか、真犯人の言っていた、「それは、どうかな?」という言葉意味がようやくわかった。


同じ顔の男が民衆の目の前で、堂々と殺人を犯す。

誰がどう見ても、フランを殺したのは自分である。


周りの多くの人間が信じるものが真実となってしまう。

例えそれが、虚構でも。


だが、その虚構を疑う者もいた。

ラルファも、その一人である。小声で耳打ちをした。


「分かっている。貴様が犯人ではないことは」


「だったら…!」


「だが、お前の事は逮捕しなければならない……お前の安全の為に」


「……!」


安全…もしかして、自分をファントムから守るために?

いや、ファントムの好きにさせないために捕らえるというのだろうか。

だとしたら乗るしかない。


「ブラーチ、フランを頼んだぞ」


「リュクレーヌ……」


容疑者は一つ、微笑むと連行された。

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