院長の証言

馬車は丘を駆け上がり、頂上付近で停まった。


途端に、ドアが開けられる、馬に乗っていた青年が「こちらでございます」と下車を促す。


二人は、馬車を降りた。麓から確認した病院が目の前にある。


「着いたね」


「ここか。それにしても随分とデカい病院だな」


少なくとも、ブラーチの病院よりは数倍大きい。とリュクレーヌは頷く。


「院長室まで案内します」


お供の青年は二人に移動を促した。


 

院長室は、高級家具や歴代院長の肖像画が並んだ重厚な雰囲気を纏っている。

どこか探偵事務所と似た空間だった。

尤も、こちらはきちんと整理整頓されている部屋だが。


「あぁ、お待ちしていました。貴方が、ブラーチ君の言っていた……」


デスクに座っていた人物が立ち上がる。

中年の男性だ。


ブラーチの名前を出したという事は、彼が件の友人だろうか。


「えぇ。名探偵のリュクレーヌ・モントディルーナです」


「助手のフランです」


リュクレーヌとフランは帽子を取り、自己紹介をした。

握手をしようと手を差し出すと、相手もすかさず手を取る。


「院長のスコッチ・ブルームです。いやぁ、すいませんね。遠い所をわざわざ」


「いえいえ、こちらこそ馬車まで手配してもらって」


ロンドン郊外の丘の上となれば距離もそれなりにあるが、馬車のおかげで快適に来ることが出来た。


大病院の院長ともなれば、馬車の手配くらい容易いものなのかもしれない。


そんな事を考えていると、スコッチは、おどおどしつつも本題へと話を切り出す。


「それで、話は聞いていますか?ブラーチ君から」


「えぇ。軽く。難病なのにあっさり治ってぴんぴんしてる患者さんがいるとか。」


「その通りなんです。本来喜ぶべきことなんですけどね。奇妙なんです」


複雑そうな面持ちでスコッチはため息をついた。


「絶対に治らない、死を待つだけの病気……それが突然治るだけでも不思議ですが」


「他にも、何か?」


「脈がずっと一定なんです。まるで、機械みたいに」


ここ二週間、検査の為に取る脈拍はメトロノームように一定。

通常の人間ではありえない事だ。


「機械、か……」


機械と言う言葉に、二人は思い浮かべた。

ファントムの道具であるマスカを。


「その患者さんは?」


とにかく、当の本人に会ってみないと話は始まらない。


向こうから依頼しているのだ。流石に面会は出来ませんという事は無いだろう。


「病室に居ますよ。案内します」


案の定、あっさりと、患者に会う事は出来そうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る