少女、最強の正体
「クレア!」
「くそっ!卑怯なマネしやがって」
このまま戦闘を続けてしまえば、フランの銃弾がクレアに命中する可能性だってある。
そうなれば当然人間であるクレアは死ぬ。分かり切っていたから、戦闘に踏み切れない。
マスカは余裕を見せたのか、それともやけになったのか「オスカー」と呼びかけた。
「お前馬鹿だな。お前が抱いていたのは結局俺だけなんだよ」
嘲笑うように言う。ざまぁみろ。とでも言うように。
そう、娼婦だと思っていた女たちはすべてアルフレッドの魂が憑依したマスカだった。
だが、不敵な笑みを見せたのは、マスカに囚われていたクレアだ。
「……貴方こそ、馬鹿ね」
機関銃がマスカに向けられる。持ち主は当然クレアだ。刹那、機関銃は弾丸を放つ。
鳴り止まない銃声と、幾つもの弾丸はクレアを捕らえていたマスカの腕を撃ち抜いた。
「なっ!?」
「嘘だろ!?」
一同は驚きを隠せない。あのクレアが、機関銃でマスカを?と。
──いや、大体、クレアは何者なんだ?
フランの頭に疑問が浮かんで間もなく、その謎は明かされた。
クレアは羽織っていた薄手のケープを脱ぎ捨てた。
そして、ケープの下に来ていたのは、カーキーの団服──アマラ軍の軍服だ。
「クレアが……アマラ軍?」
リュクレーヌも、そんな事は知らないと目を疑う。
フランはクレアの軍服にズラリと並んだ勲章に目をやった。その中でも一際輝くそれは──
「あの勲章……ガーディアンだ!」
槍を持つ番人を模した金色の勲章は、フランが言っていたガーディアンに所属する事を意味する。
「クレアが……ガーディアン……」
クレアの正体は、最高権力を持ったアマラだった。
戦闘は幾百もの銃弾が飛び熾烈を期していた。
フランもなんとか援護をする。が、スピードがあまりにも早すぎる。
それでもクレアは臆せずマスカのスピードに負けじと機関銃を構え、散弾を放った。
「悪いけど、私、今とても怒っているの」
「怒る?何に?」
「貴方の愛のカタチ……かしら」
散弾は、マスカを取り囲み、命中した。マスカはダメージを受けるが、それでもまだ自我はある。
「ははっ、男の俺がオスカーを愛したのがそんなに気持ちが悪いか?」
自らを嘲笑するようにマスカは言う。嗤えよ、というように。
要望通り、クレアは鼻で嗤った。
「私が怒っているのはそんな事じゃない。男とか女とかどうだっていいわ」
しかし、その嘲笑は同性を愛したことに対してではない。それは──
「貴方が、ろくに気持ちも告げずに愛する人を傷つけた事よ」
今度は、マスカの正面から発砲する。
「傷、つけた……」
「えぇ、勝手に自分の性別や法律に怯えて、気持ちを隠したまま、彼を騙した」
桃色の機体は歪なものに形を変える。まるで、アレフレッドの心のように。
「貴方は、オスカーさんが好きだったんでしょ!傷つけない方法で愛せばよかったのに!」
更に機関銃を放つ。無数の弾丸がマスカを貫いた。
これだけの弾丸を受ければ流石にマスカも弱りつつある。
「かわいそうね。貴方の愛はモラルや法律や倫理のもとで、歪んだものになってしまった」
──あぁ、これが最期の一撃ね。
とどめを刺す前に一つだけ、とクレアの声が穏やかなものになった。
「私は、愛が人を傷つけるものであって欲しくないの」
──引き金を引く前に、最期に教えてあげる。
「せめて悔いが無いように伝えなさいよ。心がある限り」
例え、このまま破壊されても、心はどこかにあるはずだ。
ならば、身が滅んでも、想いだけは消さずにいればそれでいい。
「俺は……オスカーを」
震えるマスカにクレアはにこりと微笑んだ。
「愛していた!そうだ、その気持ちに嘘はないし、変わらない!」
マスカが、いや、アレフレッドの心の奥底から叫びが木魂する。
「アレフレッド……」
その声は、確かにオスカーの元に届いていた。
「それで、いいと思うわ」
クレアも、やっと最期の弾丸を放った。
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