第三の男

「リュクレーヌ、それ……誰?」


フランにとって初めて聞く人物の名前だった。

あぁ、そういえば言っていなかったと思い出す様にリュクレーヌは一から説明し始める。


「三週間前、とあるアパートの一室で火災が起きた。部屋には男性が二人」


男性二人が火災に巻き込まれたという。これが今回の事に繋がるのかフランにはまだ分からなかった。


「一人は駆けつけた女性のおかげで命を取り留めたが、もう一人は死亡」


リュクレーヌがミーナの方を見て断言する。


「この時死亡した友人。それがアレフレッド・ソールだ」


ミーナの中に閉じ込められた魂の名前を。

オスカーは狼狽える。


「どうして……そこまで」


「そこのラルファ刑事に調べてもらったんだよ」


「あの時の電話は……それだったのか」


フランは事務所でリュクレーヌがした電話を思い出す。

オスカーの話を手掛かりに、ラルファに捜査を依頼していた。

幸いにも、マスカの乖離まではひと月という条件のおかげで、すぐに関連の事故は見つかった。


「だがこれは、事故ではない。事件です」


「事件?」


アレフレッドは友人であるオスカーを自宅に呼び出し共に酒を汲みかわそうと言われた。

酒も回り、自宅には帰れない。そう思ったオスカーは、アレフレッド宅に泊まっていた。

そして、その夜、彼らの居た部屋は大火に覆われたのだ。アレフレッドの煙草の不始末によって。


「アレフレッドさんの家は火災に遭った。だがオスカーさんは生き残った」


一見ただの事故だ。だが、これは事件だ。その動機は。


「けど、それは、アレフレッドさんにとってミーナのマスカになるための儀式だったんだよ」


そう、事件の当日アレフレッドはミーナを殺して自身も死ぬ。そして、ミーナに憑依したのだ。

マスカになってしまえば、燃え盛る現場に立ち入るのも可能だろう。


「どうして、そんな事を……?」


オスカーが震えながら聞く。ただの事故が、計画されていた事件だった。


「オスカーさん、アレフレッドさんは……」


アレフレッドがミーナに憑依したその動機は──


「アンタを愛していたからだよ」


愛していた。

アレフレッドがオスカーを。同性である故、その思いは罪に問われる。

アレフレッドは、自分の性別を恨んだ。


──自分が女性だったなら。オスカーと性別が違ったならば


そして、


──結ばれるためにはこうするしかない。


と仮面を手にして強行手段に出た。

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