怒りの少女

「え……?」


これで、中に侵入出来る。など考える暇もなかった。

一体、何が起こった!?と一同目を丸くするしかなかったのだから。

ドアを蹴破った人物は──


「私の大切な人に何をしているのかしら?」


怒りの表情を見せるクレアだった。


「く、クレア!?」


「どうしてここに!」


フランとリュクレーヌが慌てふためくのも気にせず、クレアはつかつかとオスカーの元へ向かう。


「貴方、何を考えているのかしら?私のブラーチさんを汚さないでくれる?」


そして、二人の間に入り、オスカーを睨みつけた。


「あ、ヤバい。これ本気で怒ってるやつだ」


付き合いの長いフランは直感的に恐怖した。

それほどにクレアから本気の怒りがにじみ出ている。

怒りの矛先が向けられたオスカーは怯えながらも、反論する。


「私のって……なんだ!君たちは付き合っているのか!」


「違うわ。私が一方的に慕っているだけよ」


ブラーチを巻き込みたくないのか、クレアだけが抱いている思いだと伝えた。


「彼女も君も女だろ?同性同士なのに何を考えているんだ!気持ち悪い」


「関係ない」


クレアは怖いほど冷静な声で呟いた後、オスカーに翠の瞳を向ける。


「私はブラーチさんが何であろうと愛しているの。性別とか、何者かなんて関係ない。私の愛情ではそんな事どうだって良いの」


強く、主張した。


「私が、愛しているの」


自身の愛情を。


「……っ!」


すると、玄関とは別の部屋に繋がるドアが開く。

そこに居たのは事情聴取を受けていたミーナだった。目から涙を零していた。


「ミーナ!?どうしてここに……」


オスカーは混乱した。

そして、ミーナの背後から、もう一人何者かが現れた。ラルファだ。


「事情聴取でお邪魔させて頂いていました」


「警察!?なんで、どうして。あぁ……どうなっているんだ」


ミーナがまさか家に居るとは思わず、浮気相手を自宅に招いてしまった事。

つまり、浮気がバレた。そして妻は泣いている。オスカーはこの世の終わりかのように床に伏せてしまった。


そんなオスカーにリュクレーヌが「おい」と声をかける


「どうしてミーナさんが泣いているか分かるか?」


「それは、僕が浮気をしたから」


「違う」


ばっさりと否定して、ミーナを指さす。


「そこに居るのはミーナさんじゃないんだよ」


「なっ!?どういう事です!?」


マスカであることを知らないオスカーは更に困惑した。

だが──


「なぁ、アレフレッドさんよ」


そんな事はお構いなしに、リュクレーヌはミーナに憑依した魂の正体を告げる。

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