医者、娼婦となり

娼婦街にて。

ドレスを纏い、化粧を施して何とか娼婦の変装をしたブラーチは、オスカーを探した。


一方、オスカーもリュクレーヌから連絡を受けて、娼婦街に来ていた。

尤も、「今日あなたを指名する娼婦は絶対に失踪しませんので安心してください」と念を押されたが。


「あ」


──見つけた。写真で見た男だ。


ブラーチがオスカーの方へと歩み寄る。


「今夜は貴方ですか」


「えぇ、よろしくお願いします」


なんとか無事接触したようだ。

娼婦街から出て行く様子を見かけたリュクレーヌとフランは追跡した。


「よし!うまくいったみたいだな」


声とガッツポーズを小さくするリュクレーヌにフランは一つ訪ねた。


「でも、よく娼婦街にミーナさんが憑依したマスカが居なかったよね?」


ミーナが娼婦街に行って、娼婦を殺し憑依していれば、ブラーチが接触する前にオスカーを指名していただろう。

しかし、その可能性は無いとリュクレーヌ言い切った。


「あぁ、ミーナさんなら今頃事情聴取を受けているはずだ」


「事情聴取?」


フランは首を傾げる。


「あの時の電話。ラルファさんからだったんだよ。それで、ミーナさんに事情聴取をして引き留めてもらったって訳」


「なるほどね……ん?」


リュクレーヌはフランに作戦の全容を告げる。

だが、フランの疑問はまた一つ生まれた。


「じゃあ、ミーナさんは今どこに?」


「オスカーさんの家だろうな」


「……この二人が向かっているのも」


「その家だな」


リュクレーヌの答えを聞いて、フランは「という事は……」と考える。

つまり──


「鉢合わせちゃうじゃん!」


「いいんだよ!それで!」


ミーナもオスカーも同じ家に居てしまう。鉢合わせとなってしまえば修羅場だ。

だが、それでもいいとリュクレーヌは言う。


「……?」


作戦の内容は分かっても、リュクレーヌが何を考えているかは分からないままだった。



オスカーとブラーチは自宅に着いた。

その様子をずっと追っていた二人も玄関先まで追った。


ドアが閉まれば姿は見えないが、どうせ、すぐにミーナに見つかり修羅場だ。

そこで自分達が駆けつければいい──と、思っていた。


ところが、耳を当てていたドアから、バンっ、とぶつかるような大きな音がした。


「っ……ブラーチさん!」


予想外の展開。

オスカーがブラーチを玄関のドアに追いやり襲おうとしている。


「何をする!はなっ……」


振り払おうにも、力の差があった。


「ちょっと!リュクレーヌ!オスカーさんが!」


「そこまでやれとは言ってない!おいおい嘘だろ!」


オスカーの暴走。どうしてこんな事になったんだとリュクレーヌとフランは慌てる。

とは言え、一番慌てているのはブラーチだろう。

こうなったら、ドアを蹴破ってでも突入しなければ。


と、考え付いた矢先だった。


バキッという乾いた音に、想像以上の速度で吹き飛ぶドア。

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