探偵の動揺

「ななな、何?」


「いや、さっきから様子がおかしいから。大丈夫?」


「お、おかしくなんか、ないぞ!」


困ったように顔を赤らめて明らかに動揺している。

推理や捜査の時の冷静さが一つもない。


おかしい。

とフランは追求した。


「いや、どう見たって動揺してるでしょ?どうしたの?」


じっと、リュクレーヌの方を見つめる。


顔が赤い。

よく見ると耳まで赤い。


「……」


リュクレーヌは「見るな」と目で訴えながらも口は開かない。


まるで恥ずかしがるような様子を見て、ようやく、フランも察しがついた。


「……もしかして、こういうの苦手?」


恐る恐るフランは訊く。

二十五歳にもなって、男女の営みと言うものが苦手なのだろうか?


いやいや、まさかそんなはず。

と半信半疑のままだったが、リュクレーヌはゆっくりと頷いた。


「え、そうなんだ……」


「悪いかよ」


いつだって余裕綽々な態度をしていた探偵は意外な事にウブだった。


拗ねるようにリュクレーヌは悪態をつく。


「別に悪くは無いよ。意外だなぁって」


「苦手なものは仕方ないだろ!」


遂には開き直って叫ぶ。


大声を出したことで、リュクレーヌ自身も「あっ!」と気づいてしまう。

幸い、窓の中の二人は営みの最中で、気づいていないようだ。


このままではまずい。とフランは思った。

ため息をついてリュクレーヌを諭すことにした。


「分かったから。あぁ、流石に中は見えないよなぁ……」


窓の方へ乗り出してもカーテンが邪魔で女性の顔は確認できない。


「……ていうか、お前こそ未成年だろ。捜査とは言え……」


「捜査なんだから仕方ないでしょ」


「なんで平気なんだよ……」


リュクレーヌは不貞腐れる様にフランを見つめる


「アマラ軍って寮生活でしょ?年上のお兄さん方の話とかが耳に入って耐性ついてるんだ」


「そういう事か」


耳年増というやつか。

とリュクレーヌは納得する。


「しかもアマラはモテるんだよ。まぁ、政府公認の軍隊だし、収入も安定しているし、うまくいけば出世コースにも乗れるし」


「出世コース?」


「うん。ガーディアンって言って、アマラ軍の中で一番偉い部隊。アマラを取り締まる役割なんだ」


ガーディアンは、アマラでありながらアマラ軍の監視をも行う。


アマラの中でも最高権力を持つ特殊な部隊であり、ほんの一握りしか選ばれない、エリート中のエリートだった。


「へぇ、そんなのもあるんだな」


リュクレーヌもアマラ軍の事はよく知らない。

そんな組織がいたなんて、意外な事実だった。


「まぁ証拠は掴んだし、後は女の人の正体を掴もう」


オスカーの浮気相手である女性の正体。

今はそれが分からない。


だから、待つ。


彼女が家を出て姿を現すのを。

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