依頼人の逢瀬

クレアが事務所を出る頃には、とっぷりというように夜になっていた。


流石に若い女の子が夜道を一人歩きはまずいだろう。

と、二人はクレアを家の近くまで送ることにした。


「ここでいいわ!」


事務所から徒歩数十分の所まで来た。


辺りには住宅が並ぶ。

このうちのどれかがクレアの自宅なのだろう。


「大丈夫か?」


「平気!すぐそこだから」


「気を付けて帰ってね」


二人はクレアに十分すぎるほどの念押しをする。


「もう、二人とも心配性ね」


「いやあ、職業柄、事件とか遭いやすいからつい……」


事件に遭遇しやすい探偵とその助手という職業から、これはフラグなのではないかと二人はつい、心配してしまった。


「大丈夫よ、すぐそこだから」


クレアは曲がり角の方を指差し、はにかんだ。


「じゃあね、二人とも。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


そして、笑顔のまま、手を振りクレアは角を曲がった。



「さて、俺らも帰るとするか」


「うん」


クレアを送るという任務は終わった。

リュクレーヌとフランも帰路に着こうとする。


そんな時だった。


「……って、ねぇ、あれって」


「ん、なんだ?」


フランが人影に指を差す。

リュクレーヌは目を細めながら、指された人物の方を見た。


「ほら、オスカーさんだよ!」


「……あー、ほんとだ!なんだってこんなところに」


よく見れば、その人物は今回の依頼人、オスカーだった。


こんな所で奇遇だ、と思ったフランは手を振り、彼の名前を呼ぼうとした。


「おーい!オ……」


「!……待て!フラン!」


「えっ?……んぐっ!?」


しかし、フランの口は、リュクレーヌの手のひらによって塞がれてしまう。

しばらくそのまま、黙っていろ、と手は退けられる事なかった。


酸素の限界がきたフランはリュクレーヌの腕を叩く。

すると、ようやく手が退かれた。


「ぶはっ!もう、何だよ!」


「しっ!急に塞いだのは悪いと思うけど……見ろ、あれ。」


「……え?」


目に入ったのは、依頼人であるオスカーと女性が並んで歩いている姿。

一緒に居る女性は妻のミーナだろうか。


否、髪型や服装から、明らかにそうではない。


「あぁ、気づいたな。一緒に居る女の人、ミーナさんじゃないぞ」


「どういうこと……?」


フランが混乱しかけている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る