愛のカタチ

「なるほど……あっ」


「どうした?」


フランが何かに気が付いて慌てる。


「クレア……ごめん!変な事聞いちゃって……」


クレアの方に気を遣うように謝った。


目の前で愛している人の性別を訊くなど、自分も目の前にいる探偵と同じくらいデリカシーに欠けた事をしてしまったとフランは反省した。


だが、当のクレアはきょとんとしていた。


「別に?私も気にしないわ」


「え?」


「私も、ブラーチさんが男性でも女性でも愛していることには変わらない……何も気にしない」


「でも、付き合ったりとか結婚とか……」


異性でないと恋愛として付き合う上で罪に問われてしまう。

習ったばかりの法律の事をフランは心配した。


「そういうのじゃないの。例えお付き合いできなくても、結婚できなくても、ただ、私があの人の事を好き」


だが、心配は無用だった。

クレアの思いは、ある意味一方通行で、一途なものだった。


「誰にどう思われようと、私が好きって気持ちには変わりはないの」


「一途だねぇ」


「例え、振り向いてもらえなくたっていいわ。あの人が生きていれば、私の好きって気持ちも消えない。そうでしょ?」


ブラーチが居る限り、クレアはブラーチを愛する。


その気持ちが、愛するという気持ちさえあればいい。

例え、それが届かなくても。

恋をするクレアの表情は、晴れ晴れとしたものだった。


「うん、なんていうか……その」


「ん?」


「そういう、愛のカタチもあるんだな」


語彙力が無いわけではないが、リュクレーヌには月並みな事しか言えなかった。


「そういえば、クレアは、昔から独特の感性というか……ちょっと、人と違うところがあったね」


「えぇ、それが私だから」


クレアはどこか誇らしげに言う。


「そうなのか……ていうか、二人はどうして仲良くなったんだ?」


アマラの訓練校時代の友人だとは聞いている。

たしかに、年齢は近いが、性別も考え方や性格も違う。

この二人がなぜ、友人になれたのか、今度はリュクレーヌが疑問をぶつけた。


「私、マスカにママを殺されているの」


先ほど言った、クレアの亡くなった母親。

彼女はマスカに殺されていた。


曰く、母を失ったクレアは、父の手一つで育てられた。

父も多忙な人で、充分な時間をクレアに使えたとは言えない。

だが、愛情はあった。

一日の長い時間の中で、父と、唯一の家族といられる短い時間が一番好きだった。


その時間だけは、愛情を見出すことが出来たから。


「君も家族をマスカに……」


「アマラを目指す人には多いんだよ……クレアと仲良くなったのは、そういう境遇が似ていたのと歳が近かったから」


だから、家族全員を失ってしまったフランにクレアは同情した。


訓練所で、彼が寂しくならないように、しつこいくらいに話しかけた。


最初はフランも鬱陶しいなと思う事はあったが、どこか憎めない無邪気なクレアに家族の様な情を抱くようになったのだと言う。


「なるほどな」


意外な共通点と過去を知り、リュクレーヌは頷いた。

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