少女は医者を

リュクレーヌはクレアに対して「あぁ、そういえば」と話を持ち掛けた。


「ずっと気になっていたんだけど」


「何かしら?」


クレアはリュクレーヌの方をすました笑顔で向く。


「君、ブラーチの事が好きなの?」


突拍子のない質問にフランが思わず飲んでいた紅茶を噴き出した。


「リュ、リュクレーヌ!!何聞いてんの!!」

デリカシーのかけらも無い!と、リュクレーヌを叱る。

だが、質問を受けた当の本人クレアは笑顔のまま


「えぇ、そうよ!」


と、見事に肯定してみせた。


「クレア!?さらっと答えた!」


「私はブラーチさんを愛しているわ!」


ハッキリと断言する。

クレアはブラーチの事を慕っている。


いや、愛しているとまで言った。

フランは「そうか、そうか」と頷く。


「でも、アイツのどこがそんなにいい訳?」


ふと、ブラーチのどこが好きなのだろう?とリュクレーヌは疑問に思った。


ブラーチは性格が明るく、気さくな訳でも、紳士的な訳でもない。

言ってしまえば無愛想だ。

服装にだって無頓着だし、所謂マッドサイエンティスト。


とても、誰かに好かれるタイプには見えないが──


「何と言っても美しいじゃない!」


クレアは言い切る。

確かにクレアが初めてブラーチに会った時、一目惚れのような態度を見せていた。


ブラーチは中性的だが綺麗で整った顔をしている。

シンプルな眼鏡も銀色の長髪もあの顔によく似合っている。


「なるほど、顔か」


「言い方」


ストレートな結論に、フランがまたも窘める。


「……亡くなった母に、ちょっと似ているの」


少し寂しそうにクレアが言った。

笑顔だが、憂いが隠しきれていないような表情で。


「あぁ、そういう事だったのか……悪かった!」


ようやく、まずい事を訊いてしまったと自覚したリュクレーヌは手を合わせて謝った。


すると今度はクレアが「気にしないで」と言う。


彼女が事務所に来た最初の状況と真逆でフランは思わず笑いそうになる。

それを見逃さなかったリュクレーヌはフランに目を向けた。


フランは誤魔化す為に、ふと、気になった疑問を投げかけてみる。


「……ちょっと気になったんだけどさ」


「ん?何」


「いや、失礼な事聞くかもしれないんだけど……ブラーチさんって結局どっちなの?」

「どっちって?」


「ほら、性別。やっぱり男性なの?それにしては綺麗すぎるなぁっ……て」


これまで一度も言及されなかったブラーチの性別。


クレアが一目惚れしているならば、やはり男性なのだろうか?しかし、長いまつ毛に整った二重まぶたやハスキーな声は男性のものにしては綺麗だと。

ふと、気になった。


「あぁ、そういう事か」


なんだ、という態度でリュクレーヌはため息をつく。


「俺も、知らない」


返ってきた答えは「分からない」


フランは、目をぱちくりとした。


「え?長い付き合いなんじゃないの?」


「そうだよ。だから昔、一度聞いたことがあるんだよ。」


遠い昔、リュクレーヌはブラーチ本人に一度だけ聞いた事がある。


「ブラーチって男なの?女なの?」と。


「そしたら……」


「そしたら?」


「滅茶苦茶怒られて教えてもらえなかった」

思わぬ結末。

フランも「えぇ……」と声を漏らす。


「まぁ、アイツが何であろうと、友人なのは変わらないからな。俺も深く追求するのはやめてるわけ」


性別が男だろうと女だろうと、ブラーチがリュクレーヌの友人であるのは変わりない。


些細な事だと思い、それ以降、言及しなかった。

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