ピンクと白のシーザーサラダ

「本っ当にごめんなさい!」


事務所にて、クレアは深く、頭を下げる。


ミーナを取り逃してしまった原因となった事を知った時はひどく顔が青ざめていた。

日が暮れ、夜になろうとしていた。

そこで、落ち着かせるためにも彼女を事務所に招いた。


ところが、事務所に来てからというものの、クレアはずっと落ち込んだ様子。

リュクレーヌはため息をついた。


「もういいから。謝んなって」


「でも、私のせいで……」


「気にしないで。知らなかったんだから仕方ないよ」


フランもフォローに回る。だが、クレアは沈黙したままだ。

このままじゃ埒が明かない。


「おい、フラン。どこ行くんだ!」


フランはキッチンの方に向かった。


リュクレーヌは、逃げる気か?と疑ったが、程なくして戻ってきた。

大きな皿を持って。


「これでも食べて元気出して」


テーブルに料理が置かれる。


レタス、ルッコラなどの緑の鮮やかな葉物野菜に紫玉ねぎ。

そして野菜の上にはピンク色のスモークサーモンと白いシーザードレッシングが映えている。


夕飯にと思っていた、サーモンのシーザーサラダだ。


「美味しそう……」


美しい盛り付けに、俯いていたクレアも思わず感心する。


「ほら、遠慮しないで」


フランが促すと、リュクレーヌが颯爽とフォークを構えて、自分の取り皿にサラダを盛り付けた。


「いただきまーす!」


「リュクレーヌはもう少し遠慮しよっか」


「なんだよー。ケチ臭いな……ほら、クレア」


リュクレーヌはクレアに呼びかけて、サラダを取り分けた小皿を渡す。


「フランもこう言ってるんだ、食って元気出せ!」


そして、にこりと笑うとクレアは頷いて小皿を取った。


「……うん!」


小皿に盛られた緑の野菜とスモークサーモンを口に運ぶ。


スモークの独特な香りが口いっぱいに広がり、そこに葉物野菜のシャキシャキとした歯応えが加わる。

シーザードレッシングはしつこすぎず、レモンを隠し味にした爽やかなものだ。


「美味しいっ……!」


今にも泣きそうだったクレアが、あっという間に笑顔になった。


「だろ?」


誇らしげにリュクレーヌは、はにかんだ。


「作ったの、僕なんですけど」


相変わらず、フランも忘れずにツッコミを入れる。


爽やかな風味のサラダはあっという間に皿から姿を消した。


「ふぅ、ごちそうさまでした!」


「お粗末様でした」


三人は手を合わせ、食事を終えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る