尾行と少女

夕方、空が橙色に染まる頃、ミーナは自宅であるオスカーの家から出てきた。


リュクレーヌとフランはバレないように、こっそりと後を着ける。


「つまり、尾行ってわけだ」


「なんか、地味だね……」


ある意味、探偵らしいとは言えるが、華がない。


「仕方ないだろ。これが一番手っ取り早い。」


今回の依頼は浮気調査だ。

容疑者を尾行して浮気相手を見つけ出すことが証拠となる。


尤も、その浮気相手と言うのが諸悪の根源である、ファントムである。

となれば、地味だろうが是が非でもしっぽを掴みたい。


「それに……もしかしたらもう一度ファントムに会えるかもしれないんだぞ!」


「リュクレーヌ、静かにしなきゃバレちゃうよ!」


「大丈夫、向こうだって俺たちの事なんて知らないんだって、バレないって……」


油断をして笑った時だった。


「あっ!」


ミーナは突然駆け出す。先ほどまでのゆっくりした足取りが嘘のように快速に。


「気づかれちゃったかもよ?」


「そんな訳……いいから追うぞ!」


二人も急いで後を追おうとした──


「リュクレーヌ!フラン!」


はずだった。


女の声に呼び止められて二人は反射的に足を止めて振り返る。


クレア!」


振り返ると、そこに居たのはフランの友人、クレアだ。


「偶然ね。どうしたの?こんなところで」


思わぬ遭遇にクレアは緑の瞳を輝かせて聞く。


「あ……これはその……」

一方、質問をされたフランはというと、しどろもどろになる。

このままでは埒が明かない、とリュクレーヌは二人の間に割って入った。


「クレア、俺達は今重大な人物を追っているんだ」


「重大な人物?」


「そうそう!だから今日のところは……」


フランも同調する。


だが、クレアは不思議そうに首を傾げ、道路の方を見つめた。


「?誰も、居ないわよ」


「あーーーーーっ!!!!」


道路には既に誰もいない。


重大な人物──ミーナはとっくに姿を消していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る