夫婦は愛し合っていたはずなのに
ローテーブルに置かれたアールグレイティーをリュクレーヌは口にする。
「それで、詳しいお話をお聞かせください」
改めて、話を聞こうと、真剣な表情でオスカーの方を見た。
「はい。妻……ミーナとは結婚して三年ほど経ちます。」
「それは、それは」
「夫婦仲は良く、喧嘩などもありませんでした。なのに……二週間前くらいからミーナの様子がおかしいんです」
おしどり夫婦だったはずなのに妻の様子がおかしい。
ファントムに逢っていたという事と関係するだろうか?リュクレーヌは本題に入ろうとする。
「仮面の男に会っていたと言ってましたね」
もしかしたら、マスカになっている可能性だって考えられる。
注意して聞かなければならない。
「はい。それ以外にも、服装が派手になったり、ここ数日は香水もキツくなって……更には、娼婦街にまで行くようになったんですよ!」
「娼婦街……ですか」
オスカー曰く、ミーナはもともと大人しい女性だった。
だが、二週間程前から突然、華美に着飾るようになったという。
そして、夜になると必ず出かける。
一度だけ後を付けたが、行き先は娼婦街で、件の怪しい仮面の男と密会をしていたという。
「リュクレーヌ、奥さんってもしかして……」
隣に座るフランが、オスカーには聞こえないように耳打ちをする。
「あぁ、やっぱりマスカの可能性が高いな」
同じボリュームでリュクレーヌも耳打ちをする。
マスカとなって性格が別人になったからだろうか?リュクレーヌはマスカの可能性を考察する。
だが、動機が分からない。そもそもの疑問点が一つ。
「しかし、どうしておしどり夫婦だったのに突然浮気なんてしたんでしょうね?」
「僕にも分かりません……妻には何不自由なくしてあげたのに」
「倦怠期ってやつですかね?」
結婚して三年だ。
お互いにマンネリが生じ始めていたのかもしれないとリュクレーヌは指摘する。
「そんなはずはない!」
オスカーは両手でローテーブルを叩いて立ち上がる。
三人分の紅茶が揺れる。突然の事にリュクレーヌとフランはびくりと驚いた。
「妻の事は愛しているんです!」
「まぁまぁ、オスカーさん。落ち着いて」
「彼女は僕の命の恩人なんです!」
リュクレーヌの眉がぴくりと動く。
「恩人?」
「えぇ、三週間前の事でした……僕はある事故に巻き込まれたんです」
「それは災難でしたね」
「けど、妻が駆けつけてくれた。そのおかげで助かったんです」
オスカー曰く、事故現場で瀕死の状態の彼の元にミーナが駆けつけたという。
「妻がいなければ、僕は今頃……」
死んでいたはずだ。
『もしも』が現実だとしたら、彼には恐ろしい結末が待っていただろう。
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