浮気調査

玄関ではなんだ。

せっかくの依頼を聴こうとオスカーを事務所の中へと招いた。


客人をもてなす為に、リュクレーヌはフランに指示を煽ぐ。


「フラン、お茶を用意してくれ」


「わかったよ!アールグレイでいいですか?」


「えぇ、何でも」


紅茶の注文を聞くと、フランはキッチンの方へと向かった。


オスカーはお気遣いなくといった態度だ。

来客者スペースのソファに座り、帽子を取る。


「それで、どのような依頼でしょう」


リュクレーヌは真面目な表情で訊いた。


早く本題を話したいのか、オスカーは「はい。実は……」と口を開く。


「妻の浮気調査をお願いしたいのですが」


「浮気調査?」

「えぇ。浮気調査です」


「浮気……調査ですか……」


一般的な探偵事務所ならよくある話なのだろうか?


リュクレーヌは、予想外の依頼に考え込む。


「あの、何か問題でも……」


難しそうな表情を見せたリュクレーヌに、オスカーはおずおずと問いかける。


「いえ、少し専門外なもので……」


ルーナ探偵事務所はマスカ専門の探偵事務所だ。

確かに探偵事務所と謳っているからには、一般的な浮気調査の依頼が来るのも無理が無いだろう。


だが、マスカやファントムについての手掛かりに関わらないこの依頼を受けるべきか?というより、できるの?

リュクレーヌは悩んでいた。


すると、オスカーはソファを降り、床に正座をして頭を下げた。


「そこをなんとか!お願いします!」


所謂土下座だ。


「ちょ、ちょっと、顔を上げてください!」


慌てたのはフランだ。

せっかくの依頼人に土下座をさせるなんて、とオスカーを止める。


そして、リュクレーヌの方を「どうにかして!」というように睨んだ。

しかし、オスカーは土下座を止めない。


「妻があんな怪しい男と浮気しているなんて……耐えられません!」

頭を下げたまま、オスカーは叫んだ。


「ん……怪しい男?」


リュクレーヌは「どういう事だ?」と聞き返す。


「はい。僕、見たんです!妻が、黒くて長いマントを羽織り、仮面を付けた男に金を渡しているところを……」


「!?」


黒いマント、仮面、そして金銭のやり取り。

思い当たる人物がリュクレーヌとフランにはあった。

「リュクレーヌ……もしかして」


「あぁ、ファントムかもしれない!」


先月、花畑に現れた黒幕の姿と一致した。


「その話。もっと詳しく聞かせて頂けないですかね?」


と、なれば話は別だ。


「依頼、受けて頂けるんですか……?」


「えぇ。事情が事情なもんでね。喜んで受けましょう!」


ファントムに関する手掛かりが手に入るかもしれない。


これは、ひょっとしたら、もう一度お目にかかれるかもしれない。


「ありがとうございます!」


その可能性に賭けてみることにした。

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