一般のお客様

「ん?」


本を持たされたフランはリュクレーヌの目をみて聞き返す。


「これ、貸すから読んどいて」


「んん??」


リュクレーヌは笑顔だ。フランは首を振る。


「えっ、待って無理無理無理!」


「大丈夫、大丈夫!楽しんでやればなんとかなるだろ」


絶対に適当な事を言っている、とフランは思った。


「いや!いきなりハードル高すぎるって!」


名探偵の課した宿題はなかなかの鬼畜仕様だった。



そう言った事情で、フランが宿題に頭を抱えて唸っている時だった。

コンコンと、探偵事務所のドアが二回ノックされる。


「ごめんください」


ドアの向こうから、訪ねるような声。来客だ。

しかし聞いたことのない声。いったいだれだろうか?


「はーい。今行きます!」


フランは宿題が嫌なのか、リュクレーヌが向かう前に一目散でドアを開けに行く。



「どうも」


ドアを開けると若い男がいた。大人びた紳士と言ったところだろうか。

リュクレーヌと同い年か、或いは少し年上かと思わすような見た目をしていた。


「どちら様でしょうか?」


怪しい者ではなさそうだが見ず知らずの人間だ。フランは男に名前を問う。


「初めまして。僕はオスカー・レディングと申します」


「こちらこそ初めまして」


握手を交わす。オスカーは手短にと、要件を話し出した。


「すいません……外に探偵事務所と書いてあったのですが……」


「はい。その通りです」


ドアプレートに書いてある『ルーナ探偵事務所』の文字を見てここを訪ねた。


となると、要件はもしかして──デスクに居たリュクレーヌもいつの間にか玄関の方へ来ていた。


「あの……よろしければ依頼を受けて頂けないですかね?」


「!!」


オスカーの「依頼」という言葉に二人は目を見開いた。


夢じゃないよなと、リュクレーヌは頬を引っ張る。痛い。夢じゃない現実だ。


「依頼ですか?」


もう一度確認するように問う。


「えぇ、依頼です」


確かに依頼だった。リュクレーヌの黄色い瞳とフランの青い瞳が輝いた。


「フラン!依頼だぞ!しかも警察じゃない、一般の人からだ!」


「やったね!リュクレーヌ!」


この事務所も随分と有名になったものだ、とリュクレーヌは頷く。

二度目であっても依頼は相変わらず嬉しいものだ。それもそのはず。


今回は警察ではなく、見ず知らずの一般人からの依頼だ。

二人は依頼人の事を気にせずはしゃいでいた。


「あのー」


恐る恐る、オスカーは声をかける。気づいた二人はハッとした。


「あぁ、せっかくのお客さんだ。中へどうぞ!」


「ありがとうございます」

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