4.ピンクムーン

読書の春

四月の満月は恋愛にご利益があるなんて噂がある。


ピンクムーン。


色が恋愛を連想させるのだろうか。


否、そんな事あるはずがない。

だって、この想いは──



「暇ーーーーー!」


ルーナ探偵事務所にて、お決まりの状況をフランが叫ぶ。

開業から三ヶ月。相変わらず依頼は無かった。


するとリュクレーヌはデスクから叫び返す。


「暇?だったら本読もう!本!」


そう言って、リュクレーヌは持っている本をフランの方に見せびらかした。

背表紙には『イギリス法』と記されている。

本を受け取ったフランは思わず苦い顔をした。


「う……分厚っ、重たっ……字ちっちゃ!」


重く、厚く、小さい字の本はフランにとっては『むずかしそうな本』でしかなった。几帳面で真面目だが、勉学の類はどうも苦手なフランは、これは面倒な事になったぞ、と頭を抱える。


だが、リュクレーヌは構わず本について説明する。


「この本はこの国の法律が綴られたもんだ。俺もちゃんと勉強してるの!」


英国の法律が綴られた本。リュクレーヌも長らく刑務所に居たので、改めて国の事を理解するため勉学に勤しんでいる。


「うぅ……よくこんなの読めるね」

尤も、フランは十七歳。二十五歳の大人が読むような本を見て躊躇してしまうのは無理が無いだろう。


「まぁ、興味があるところから見ればいいと思うけどな」


「法律には興味が持てないよ……」


いきなり興味のない分野の、それも小難しい本を読むのは苦痛だ。

フランは弱音を吐く。


「じゃあさ、適当にページ開いてみ?」


「えー……」


「ほらほら、騙されたと思って」


ずいっと、フランに本を押し付ける。


「分かったよ。しょうがないなぁ」


すると、フランも仕方なさそうに、ようやく本を開いた。

目次にすら目を通していないので本当に適当に本を開いた。


開かれたページには『男色』と記されてあった。


リュクレーヌは居心地の悪そうな表情をする。

一方ページを捲ったフランはよく分からないまま首を傾げた。


「……えーと、これって」


「あぁ、これはあれだ。同性愛に対する規制法だよ」


男色の言葉の意味を理解して、フランは目を丸くした。


「そういうのもあるの!?」


「ある。十九世紀あたりに出来た法律だよ。同性愛者は死刑にされてたっていうな」


この法律では公共の場で同性愛におけるふるまいをする事で絞首刑に処されるといったものだ。


「えぇ……そんなに重い罪なの?」


「いや。死刑っていうのは建前だけで、実際のところは流刑とかに軽減されているらしいぞ」


十九世紀の後半へとなるにつれて、同性愛者が実際は死刑に処されることは無く、減刑されていた。

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