助手の決断
一方フランはというと、呆れた、といった表情で床の方に目をやった。
そして、一点を見つめて極小さい声でぽつりとこぼした。
「……あ、ゴキブリ」
「!?えっ!?マジ!?嫌だ!どこどこどこ!死ぬっ!やめて!」
先ほどの余裕の表情が嘘のようにリュクレーヌは慌てだす。
「さっき、死なないって言ったじゃん!」
死なないという発言から一転「死ぬ!」という叫び。その矛盾を指摘した。
「だってゴキブリだけは無理!!ほんと無理なんだってー!」
あぁ、こんなのカマをかけただけの嘘なのに。フランはため息をつく。
「もう……嘘だって」
「嘘?」
「うん」
「ゴキブリいない?」
「いないよ。僕が片付けてるんだから」
「……なんだぁ、驚かせるなよ!」
虫一匹でこれほどに狼狽えて慌てるし、精神年齢も自分とさほど変わらないんじゃないかって思うような雇い主だけど。
これでも推理は外さないし、正論を投げつけるんだよなぁ。とフランは自分が振り回されることがどこか悔しくて、ある提案をした。
「あのさ……リュクレーヌ」
「ん?」
リュクレーヌが顔を向ける。約三ヶ月四六時中見た顔なのに、何を考えているのか何処に向かっているのかが分からない。だから。
「その……僕も作戦とか、リュクレーヌの考えとか知っておきたいんだ」
「うん」
「だから、その……推理のしかた?っていうのかな……教えて、欲しい」
リュクレーヌはきょとんとする。つまり、どういう事?と訊く前に自分の頭で考える。
「……え?何?弟子入り?」
至った結論はフランが探偵としての弟子になること。
「え!?いや、そういうのじゃ」
「そーか!そーか!嬉しいぞ!じゃあ早速何から勉強しようか……うーん」
「べ、勉強!?」
勉強嫌いなフランはこの時点で、言わなきゃよかったと後悔する。
「頭良くないと推理は出来ないぞ?」
「ええええっ!?」
「当たり前だろ!」
あぁ、本気で後悔しそうだ。これから知識を詰め込む頭を抱えながらも、やるしかないと腹を括った。
自分にも少しでも推理が出来るなら、リュクレーヌの意思や望みが明確にわかる。そしたら今回みたいな変な気遣いによる衝突も避けられるだろう。
そんな意図がフランにあるなんてリュクレーヌ自身は全く気にせず書斎の本棚を楽しそうに眺めていた。
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