苦しんでもいい人間
「……フラン」
いつものように淡泊に「仕事だ」と言おうとした。少しだけ躊躇する。
動揺していないか。戦えるか。そして、また彼を傷つけないか。
「大丈夫。分かってるよ」
リュクレーヌの気遣いもお見通しだとフランは笑う。
そして、真剣な表情で銃を握り、照準をラウエルに合わす。
間髪入れずに発砲。ズガンと弾丸が当たると魔法陣が浮かび、ラウエルの躰は棄てられて機械がむき出しになる。
虫の形の、デルのマスカの時と似ている形だ。
ただ、今度は蝶の羽やトンボの羽、カブトムシやクワガタの角をもった成虫をモチーフにしたようなマスカだ。
リュクレーヌの表情が歪む。しかし、フランは躊躇せず立ち向かった。
「改めて聞きます!何でこんな事を?」
「あぁ、当然、復讐の為。僕たちが捕まえた強盗殺人犯へのね」
デル達の扱った事件の復讐。デルのマスカが言ったとおりだ。記憶を共有しているから、そこに食い違いは生まれなかった。だが、そうなると以降の事件は?とフランは尋ねる。
「でも、それ以外の人たちは……」
「それ以外?あぁ、奴らも誰かに殺してほしいとまで思われるような事をしている。殺しても悲しまれなくて、むしろ喜ばれる人間です。殺してもいいかと?」
強姦、動物虐待、窃盗、そして、いじめ。
これらの罪を犯した人間は処理をしていい、いや、しなければならない。とでも言いたいようにマスカは言う。
フランは、マスカの言葉が至って悪気無く聞こえて、何かがこみ上げる感覚に陥る。
「……そんなわけが無い」
「はい?」
「殺して良い人間なんて、殺されて悲しまれない人間なんていない!」
断言する。復讐だろうと、罪人だろうと、誰であろうと、命を奪っていい人間なんていないと。
奪う権利がお前にあるものか。と
しかし、マスカはニヤリと嗤う。
「そうでしょうか?あの子は喜んでいましたよ?」
「じゃあ、チャート先生が罪悪感で潰れそうだったのも、悲しみじゃないのか!」
チャート先生。事件が起きたのは自分のせいだと苦しんでいた。泣き、喚き、懺悔していた。自責の念に押しつぶされそうになった彼女は、この事件でかなしんでいただろう。そう、フランは指摘した。
「いじめに気づけない教師など悲しんで苦しめばいい」
「っ……」
彼女もまた監督不行き届きによる罪人であると。マスカは言う。
フランは何も言えず、奥歯をギリッと噛みしめた。
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