害虫処理の真相

「何っ!?」


ラウエルの視線がリュクレーヌを追うと、月明かりに照らされた、リュクレーヌを抱える少年の姿があった。


「リュクレーヌ!」


フランだ。

どうやら間に合ったようだと胸を撫でおろす。


「この通り、うちの助手は優秀だからさ!」


一方リュクレーヌは得意気に言う。

するとラウエルは「くそ……」と言葉を漏らした。


「いやーフラン、助かった……」


リュクレーヌは笑う、だがフランは震えている。すると、次の瞬間、へらへらと笑う雇い主のコートの襟をつかんだ。


「この、馬鹿リュクレーヌ!本当に馬鹿!何やってんの!?馬鹿なの?死ぬの?」

「何回馬鹿言うんだよ」


少し不服そうに不貞腐れながら、いたって冷静に指摘する。


あぁ、敵わないなとフランも思ったようで、ため息を一つついた。


「……無事でよかった」


安心したという本音をようやく零すフラン。リュクレーヌはそんな彼の頭をくしゃりと撫でる。


「……ありがとな」


助けてくれた礼を言うと、フランの顔にも笑顔が浮かんだ。


 

「って……うわっ!?」


地震かというほどの揺れと地響き。


「僕を、本気で怒らせましたね……」


ラウエルが地面を殴っていた。

ご立腹のようだ。俺を無視するなとでも言いたいように。


「あれが、本物のデルさん?」

「あぁ、そうだ。躰は小学生のラウエルだがな」


「……やっぱり、あの子もマスカだったんだ」


フランの顔が歪む。リュクレーヌの推理通りだった。違う、と思いたかったが、現実は無情だ。


「あの子とは……ラウエルの事ですか?」


「知っているの?」

「えぇ。もちろん」


「そうだよな。じゃないと殺すわけが無い。」


リュクレーヌが前に出た。

もう、すべて分かっている、お見通しだという顔でご自慢の推理を披露する。


「害虫駆除は四件目までは人間であるデルがやっていた。警察なら犯罪者の情報を手に入れるのも銃を使う事も出来る」


「じゃあ、五件目は……」

「五件目以前の犯行を目撃したラウエルが害虫駆除人の正体を知ってしまったんだ。血文字で分かったんだろうな」


ラウエルは三件目の殺人を目撃していた。いじめられっ子たちに脅されて、見に行けと言われたのだろう。まずい。デルは焦った。こんなにもあっけなくバレてしまう訳にはいかない。


しかし、ラウエルは崇拝していた。害虫駆除人、デルを罪人に裁きを下す義賊として。


「そう、幸いな事に、ラウエルは僕をヒーローだと崇めていました」


「ただ、バレてしまったからには何とかしないといけない。そのころには警察も連続殺人に捜査を切り替えていたから……だから仮面を買って転生をしたんだろ?」

「その通り。そこで僕は五件目の現場で依頼されたいじめっ子の駆除を見せてやりました。それはもう大喜びでしたよ」


放課後の教室にて、いじめられていたラウエルの目の前で、銃を放ち、四人の子供たちを殺した。


「まぁ、彼の事も殺してあげましたけど。僕が転生するために」

「……そんな、事のために」


ラウエルを殺したのは利用するため。自分が逮捕されないようにするための避難場所として。

捜査官のデルは死ぬが、害虫駆除人デルの魂は生きる。これからは復讐鬼のマスカとして罪人を懲らしめるだけの存在で生きる。警察組織としてのしがらみもない。自由な義賊として第二の人生を歩もうとしていた。


「しかし、ラウエルが仮面を買っていたとは……」


しかし、そんな彼の計画にも予想外の事が起こる。

ラウエルが仮面の契約者でありマスカになる事が出来た事。


「……だから、害虫駆除人に憧れていたラウエルはデルの躰に転生したのか」


捜査官デルがラウエルの魂を宿して生き続けた事だけは、想定外だった。

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