復讐鬼の誕生

デルは「くそ!」と叫びながら抵抗する。

暴れるデルを見たフランは、まだ信じられないと顔を青くする。


「そんな……捜査官の、正義感が強い貴方がどうして!」

「だからだよ。罰を受けるべき奴が裁かれない。おかしいだろ?」


デルたちが最初に担当した事件。強盗殺人。やっとの思いで犯人逮捕までこぎつけたのに、結局死刑は免れてあっという間に出所した。出所した犯人は言った。「俺、ツイてるわ」と。デルは許せなかった。


──人を殺しておいて、どうして平気でいられるのだろう?


法で正しく裁けないなら、同じ目に遭わせてやりたい。そして、一つの案が浮かぶ


──そうだ、だったら同じ目に遭わせてやればいいんだ。


デルの心に復讐鬼が産まれた瞬間だった。


「お前は害虫駆除を……天罰を与える義賊、とでも思っているんだろ」

「あぁ、そうだよ。間違っているか?みんな喜んでいる」


犯人が殺されて、被害者の家族は泣きながら喜んでいた。天罰が下ったのだ、と。

その後も、悪人を裁いた。

警察のデータベースだけでは飽き足らず、依頼と称して、復讐を代行した。


これが、害虫駆除の実態だった。


「……フラン分かっただろ。こいつが子供たちを殺した犯人だ」


ここまで開き直られてはもう、言い逃れはできない。覚悟は決めていた。

フランもようやく決心したのか、状況を固唾とともに、ゴクリと飲み込み

「……分かった」と言って引き金を引いた。


 

電話を受けたラルファと捜査官達は再びポストの前に駆けつけた。


「なん、だこれ…」


言葉を失う。

フランが立ち向かっているのは、芋虫やカブトムシの幼虫を模した機械の化物だった。


「あれは、デルだったものだ……」


酷な事だとは思ったが、リュクレーヌは真相を告げる。すると、シフはリュクレーヌに掴みかかった。


「あれがデルだと!?そんな!そんなはずない!」

「まぁ……正確には、違うがな」


「え?」


「アイツはお前たちの知っているデルじゃない」


目の前にいるデルだった化物は、デルの体に宿っていた、別の誰かである。デルなのは躯だけであり、そこに、シフやタブと同期の捜査官、デルの魂はない。

記録として残ったデルの記憶があるから、彼の躯を乗っ取ってもシフやタブの事は覚えている。

だから、彼らが同期であること、どのような捜査をしたか等は分かるのだ。尤も、分かる、だけであってデル本人がこれからどう思うかの未来は奪われた訳だが。


「だから……マスカは存在してはいけないんだよ」


奪われた未来を天に還す為に。

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