張り込みホットサンド

依頼書を投函したポストの傍の物陰にて、リュクレーヌ達はひっそりと張り込みをしていた。


だが、時間は過ぎるばかりで、とっくに日は暮れていた。


「おい、いつまで待てばいいんだ……」

「集配人、もしくは犯人が現れるまでだよ」


そう言ったのも何度目だろうか。ラルファにいつまで待てばいいかを聞かれるたびに同じように答えていた。


「くそっ、まだか……」


「お腹すいたよ……」


日暮れどころか、張り込みは深夜にまで及ぼうとしている。もうすぐ日付が変わる。

全員、夕食もろくにとっていない。空腹だろう。


「というか、あの助手くんは何処に行ったんだ?」

「フランか?彼ならもうすぐ……」


フランの行方を訊かれた直後だった。事務所から出てきた本人が「みなさーん」と小声で言う。


手には何やらバスケットを持っている。


「お、フラン。帰ってきたか」


「たく、何をしてたんだ」


窘めるラルファの方を向いて、リュクレーヌは挑発するような表情を見せる。

「お?そんな口聞いちゃっていいの?」

「どういうことだ?」


「フラン、持ってきたものを見せるんだ」

「分かった」


大きなバスケットの中身を取り出す。箱が出てきた。

証拠品か?とラルファは箱を難しい顔で睨みつける。


フランは、箱の蓋を開ける。


「こ、これは……!」


そこには、出来立てだろうか、バターの香りと共に湯気を立てた暖かいホットサンドがあった。


切れ目から見える黄色は、卵。ふんわりと作られたスクランブルエッグだ。


「う、うまそう……」


捜査官たちは唾を飲む。


「た、食べていいか……いや、いいですか?」


空腹もあるだろうが、シフが口調を丁寧なものに変更するほど、ホットサンドは美味しそうだった。


「もちろん!みんなで食べるために作ってきたから、食べてください」


「ありがとう、じゃあ、いただきます」


皆は「いただきまーす」と感謝しながら手を合わせた。

その手を、ホットサンドの方に伸ばし、かぶりつく。


「卵がスクランブルエッグなんだな!」


すぐに分かった。通常のタマゴサンドとは違い、スクランブルエッグを挟んだものであった。

夜は冷える、だからこそ温かいものを、といったフランの気遣いである。


「玉ねぎとハムも入っている!味付けもちょうどいい塩梅」


「サンドイッチなら張り込みしながら食べられるしな」


勿論、全員が空腹だったことも知っている。ある程度ボリュームのある物を作りたいと思った。

だから、スクランブルエッグに具を足した。それをホットサンドにする。

食べやすく、ボリュームもある。体力勝負の張り込みにはぴったりの夜食だった。


しかし、絶賛される料理に誇らしげなのは、フランよりもリュクレーヌの方だった。


「美味いだろ!美味いだろうっ!うちの助手の飯!」

「なんでリュクレーヌがどや顔なの」


作った張本人であるフランはリュクレーヌに「こら」とでもいうような視線を送った。

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