探偵の囮捜査

「確かに理にかなっている……だが、危険すぎる」


ラルファは難しい顔をする。何故なら、これがただの殺人事件ではないからだ。


「うちの捜査官達をそんな危険な目に遭わせられない」


相手が人間であれば太刀打ちできただろう。ただ、今回の事件の犯人はおそらくマスカだ。

屈強な捜査官でも、百戦錬磨の刑事でも殺される事は目に見えていた。


「あぁ、ご安心ください。大事な部下達にそんな事頼みませんよ」


リュクレーヌも相手がマスカだという事は考えた上であった。

だとしたら、もしかして……僕が囮かな?アマラだし。と、フランはなんとなく作戦の予想をしていた。

しかし、囮となる人物は、意外な人物だった。


「囮は、僕自身がしましょう」

「リュクレーヌが!?」


リュクレーヌ自身が、この作戦の囮。フランは動転した。

そんな、相手はマスカなのに、何を考えているんだ、と。


「ちょっと!何考えているの!」

「安心しろ、俺は死なないから」

「そういう事言う奴が一番初めに死ぬんだよ!?それ、死亡フラグだよ!」

「えー、でもフランいるし、大丈夫だろ」

「そりゃ、そうだけど……って、え?」


フランは、顔を上げて、リュクレーヌの顔を見る。


「危なくなったら、アマラのお前が助けてくれる。そうだろ?」


そこには、全てを信頼しているような純粋な笑顔があった。


「……うん。分かった」


その笑顔に安心したのか、フランはこれ以上言うまいと、承諾した。

すると、リュクレーヌは「よし!」と声を張る。


「じゃあ、偽の依頼書を作って……」


作戦開始。のはずだった。


「ちょっと待ってください」


が、ストップの声。声の主は、デルだった。


「ポストに集配が来るとしたら、別に囮捜査なんかしなくてもいいんじゃないですか?」

「本当だ……そうだよ!依頼書入れなくてもいいじゃん!」


デルの意見にシフが同調する。

つまり、デルの意見はこうだ。依頼書を取りに来る人物は、別に依頼書を用意しなくても、ポストの前で張り込みをしていれば、現れるのでは?という事だった。

だが、リュクレーヌは動じない。そして、突飛な問いを投げかけた。


「その集配人がマスカだったらどうする?」

「マスカ?」

「マスカだったら、普通の人間には捕まえられないだろ?」


「まぁ、そうだけど……」


「マスカとまでは言いませんけど、集配人に逃げられたらもうチャンスは巡らないでしょう」


集配人を捕まえるには一度限りのチャンス。逃してしまえば、もう二度と捕まえる事は不可能になってしまうだろう。


「となれば、実行犯を直接捕まえるしかない。」


しかし、本当に依頼をしていれば、この連続殺人の実行犯が目の前に現れるだろう。リュクレーヌを殺すために。


「つまり、囮捜査は保険ってわけだ」

「なるほど」


「というわけで、依頼書が書けたから、これをポストに入れておく。そこからはずっとポストの前で張り込みだ」


幸い、ポストは探偵事務所の近くだ。とはいえ、いつ終わるか分からない、長い張り込みが始まる。

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