現場と死臭

 

昼間の街。ラルファの歩く後ろをリュクレーヌとフランは二歩ほど離れて歩く。


その影が二つしかないことに、フランはふと疑問を抱いて「そういえば」とリュクレーヌに話しかける。


「今回はブラーチさん居ないんだ」

「残っている死体が無いからな」


前回の事件で、死体の状態から事件解決へのヒントをいくつも導いた監察医ブラーチ。

今回は彼が居ない。理由は明白だった。ラルファが見せた写真。事件の現場には死体らしきものは残っていない。


調べるべきものは何もない、かつ今回はマスカの犯行だと既に分かっている。

一応、リュクレーヌもブラーチに声は掛けた。が、上記の理由により、興味がない、と断られてしまった。


犯人がマスカなのは分かっている。だとしたら、事件を起こしたマスカが誰なのか。いつマスカになったのか。これらが、今回の事件の鍵だ。


「ここが現場となった教室だ」

「ここが……」


会話を交えながら道を歩いていると、あっという間に現場に到着した。

木造の教室。普段は平和に授業が行われているだけの空間であるはずだった。

この先に待っているのは血塗られた地獄だろう。


「フラン、お前は入らない方が良い」


だとしたら、当たり前だが血や死体が苦手なフランはここから先は立ち入り禁止。

本人も分かっているようで、頷いた。


「分かってる……うっ!?」


だが、突如、鼻と口を押えて床に蹲ってしまった。


「フラン!?おい!どうした」

「ごめん……見ないようにしてても匂いが……うぐっ……」


目を向けないようにした現場であっても、臭いは容赦なくフランへと向かう。

血と腐った肉の生々しい現場の臭いはフランを襲った。


「えぇ……とりあえずトイレ……」


このままでは埒が明かない。まずはフランをここから離れた場所へ連れて行かなければならない。


初めて来た小学校のトイレの場所をリュクレーヌは探した。あぁ、こんな事をしている場合ではないのに、と思いながら。


すると、一人の若い男が話しかける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る