刑事の用件
季節に沿ったような和やかな空気の事務所に、ノックの音が転がった。
「ん?だれだろ」
朝から誰が、何の用だろう?デスクのリュクレーヌが座っていた椅子から、ドアまでは少し距離がある。
「フラン、出てくれないか?」
「分かったよ」
リュクレーヌはフランに受付を任せた。
訪ね人を待たせないようにと、急いでドアを開ける。
「はい、どちら様……」
「どうもこんにちは。ご無沙汰だな」
ドアを開けた先には、男がいた。どこかで見た様な顔である。
男は「邪魔するぞ」と事務所に入り、リュクレーヌの居るデスクの方まで歩く。
男の顔を見たリュクレーヌは「あ、誰だったかなぁ……」という表情を見せた。
「貴方は……えっと……」
いや、絶対に会った事があるはずだ、もう喉のところまで答えは出かけている。
記憶の引き出しをしらみつぶしに探して、答えにたどり着こうとしたが、あと一歩のところで分からない。
そんなリュクレーヌにフランが小声で助け舟を出した。
「ラルファさんだよ。刑事の」
「あっ!そうそう!ラルファさん!」
ようやく思い出した。彼の名前はラルファ。オペラ座の事件の時に世話になった刑事だ。
「……今、忘れていなかったか?」
「そんな事ありませんって!気のせい気のせい!」
リュクレーヌが慌ててなんとか誤魔化すが、ラルファは納得いかない様子。
こうなったら、話題を変えるしかない。
「……それで、刑事さんが何の用です?」
用件を聞いてしまおう。オペラ座の事件はもう一か月前に片が付いている。
礼を言いに来るには遅すぎるだろう。一体、何のためにわざわざ探偵事務所を訪ねたのか。
「……実は、折り入って頼みたい事がある」
用件は頼み事。待てよ、これは。
「それって……つまり」
フランもピンときたみたいで、聞き返す。
「依頼?」
二人の声が重なる。
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