お花見の思い出

リュクレーヌはきょとんとした。


「フランが?」

「うん。こちとらアマラだよ?虫に負けたりしないし」


なるほどとリュクレーヌは納得したように頷く。


「なんでそこまで花見に行きたいんだ?」


ただ、フランがそこまで自分に尽くしてでも花見に拘る理由は気になった。

何かあるはずだ、と、リュクレーヌは踏んでいた。

そして、予想は見事に当たる事になる。


「……家族が生きていた時は、毎年行っていたんだ」


まだ母親が病に倒れる前──すなわち、父がマスカになる前であり兄弟が殺される前。フランは春といえば家族と花見に行っていた。

母の手料理を持って、花畑でピクニックをする。平和なコンセルタ家の通例行事だった。


「だから、この季節は誰かしら誘って花を見に行くんだよ」


幼いフランが過ごした家族との数少ない大切な思い出だから、それだけは忘れたくなくて、毎年春には花を見る。

家族の思い出を忘れないための理由だった。

言いづらいことを訊いてしまったと、リュクレーヌはおろおろしてしまう。


「あ、あぁ……そういう事だったのか……ごめんな」

「いいよ、他の誰か誘うからさ。苦手なのに、ごめんね?」


こちらこそ申し訳ないといった様子でフランは笑うと「クレアを誘ってみようかな……そうなるとブラーチさんも呼んだ方がいいかなぁ」

と独り言を言う。


ブツブツとつぶやくフランの様子を見ながらリュクレーヌは少しだけ考えこんで、口を開いた。


何かを決心するような表情で。


「……行こう!」

「え?」


行く?もしかして。淡い期待を抱いた表情を見せながらフランはリュクレーヌの方を振り返る。


「花見。フランが虫追っ払ってくれるんだろ?それなら大丈夫」

「本当に!?」


ぱあっと明るくなるような笑顔。リュクレーヌも微笑みかける。


「家族で花見かぁ……」


リュクレーヌかしみじみと呟く。彼の珍しい様子をみたフランが「そういえば」と声をかけた。


「リュクレーヌの家族ってどんな感じなの?ほら兄弟とか」


自分には兄が居た。リュクレーヌも同じように兄弟がいるのだろうか?はたまたひとりっ子なのか?フランは気になった。


「兄弟か……あ、弟が一人いるよ」


リュクレーヌには弟が居た。この事実を知ったフランは何やら閃く。


「へぇ!じゃあせっかくだし弟さんも呼ぶ?」

「いや、それは無理だな。」


せっかくの提案はあっさりと否定されてしまう。フランは「どうして?」と理由を尋ねた。


「あいつ初対面の奴と喋るのとか、こういう集まり苦手だから……」

「そっかぁ……あ、でも、リュクレーヌは行くんだよね?」


確認するように訊く。すると、リュクレーヌは微笑んだ。


「あぁ、約束だ。……といってももう少し暖かくなってからだけどな」


今はまだ少しだけ寒い。花が芽吹くのももう少し先だから、その頃に行こう。

しかし、二人の約束は思いがけない形になってしまうのであった。

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