名探偵の意外な弱点

「花が何かあるのか?」


だが、リュクレーヌには意図が分からなかった。

花の広告が意味する事。何かの事件だろうか?と、半信半疑で聞き返す。


「事件とかじゃないんだけど……このスイセン畑がすごく綺麗だなって」

「おぉ!確かに綺麗だなぁ!」


紙面に映るスイセンの写真は白黒写真でも可憐さが分かる。

びっしりと敷き詰められた花々は絨毯のようで、色づいた実物はもっと美しいのだろう。


「この近くにもあるみたいだけど……どう?行かない?」


この光景を是非とも見てみたい。故に、フランはリュクレーヌを花見に誘ってみた。


「あー……申し訳ないけど行かない」


しかし、見事に断られてしまう。


「えぇー!なんで?依頼もないし暇でしょ?」

「暇は余計だろ」


仕事がない事を指摘されたリュクレーヌは頬を膨らませる。

まぁ、仕事、無いけど。

フランは素朴な疑問を抱いた。特に忙しいわけでもないのに、花畑に行く事がどうして嫌なのだろう。


「でもどうして?花は苦手?花粉症とか?」

「確かに花粉症はあるけど、花は大丈夫。好きだよ。ただ……」


「ただ?」

「そういう所って今の季節だと特に虫がいるから……」


花は好き。だが、それに伴う虫。ミツバチや蝶などのかわいらしいものだけならまだしも、芋虫や毛虫など見た目がグロテスクなものもいる。


「……虫」

「あぁ、虫」


リュクレーヌにとって、花見に行くデメリットはたった一つ、虫が気持ち悪い。それだけだった。


いやぁ、にしても……とフランはリュクレーヌの目を確認するようにじっと見つめた。


「リュクレーヌ……虫駄目なの?」

「絶対無理。事務所に害虫出たら、ここ全部焼き払うレベル」


「それは相当だね」

「考えただけでも嫌だ……」


焼き払われていないあたり、この部屋に害虫が出た事は無いのだろう。

よくまぁ、片付けしない部屋で一度も害虫が出なかったものだ。フランは不思議に思いつつも感心する。


リュクレーヌは虫が苦手。ひょんなことからフランは意外な弱点を知ってしまった。

あ、でも、だとしたら。と、フランは一つ、提案をする。


「じゃあさ、虫がいたら僕が追い払うよ」

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