3.ワームムーン
三月の朝と新聞記事
また一つ、死体が転がっていた。
深夜二時過ぎ、心臓と目を撃ち抜かれた死体は、犬小屋の中に半ば無理やり入れ込まれていた。
──へぇ、今度は動物虐待をした男を懲らしめたんだ。
犬小屋の屋根には何やら文字が書かれている。
"Pest Control"
赤い、べっとりとした液体──血だ。
素晴らしい。今回も完璧な仕事ぶりだ。と、拍手をする。
──あぁ、自分も、この人のような害虫駆除人になれないものか。
心から望んだ。
望んだから、この希望を叶えてくれる人に出会えたんだ。
死ぬ準備ならできている。
──できることなら今すぐにでも、貴方様に成り代わりたい。
◆
三月ともなると、朝晩は寒い日が続くが、真冬の刺さるような冷たい空気は少しだけ和らいでいた。
植物は芽吹き、生き物たちは冬眠から目を覚まし、地上へと帰ってくる。
新たな始まりを感じさせる季節の中、ルーナ探偵事務所はというと
「暇だぁ……」
相変わらず暇。
季節が移り替わろうと、この事務所に依頼がない事は変わらなかった。
「おはよー」
助手のフランも冬眠から覚めたように、身支度をしながら欠伸交じりでリュクレーヌの元へ現れた。
「あぁ、おはよう」
挨拶をしながらリュクレーヌは紅茶を二人分のカップに注ぐ。予め多めに淹れていてよかった。
「ん、紅茶」
「ありがと」
リュクレーヌから紅茶を貰い、礼を言うと、そのまま口に運ぶ。目が冴えるようなペパーミントのフレーバーティーは低血圧で朝が苦手なフランにはぴったりだった。
紅茶を飲みながら、既にリュクレーヌが読み終わった新聞を読む。
活字は苦手だけど、何か事件が無いか、ファントムに関する手掛かりは無いか、調べるためにも真剣に目を通していた。
「あ」
ふと、ある記事に目が留まった。何かに気づいたのだろうか。
「ねぇ、リュクレーヌ」
すぐさま読書中のリュクレーヌに声をかける。
「ん、何?」
「ちょっと見てよこの記事」
フランはデスクの上に新聞を広げ、当該記事に指を指す。
「えーと、宝くじを当てる方法教えます。これでアナタも億万長者!」
「違うよ、そこじゃない」
だが、リュクレーヌはフランの指差した方とは関係ない記事に目を向けていた。
「えー?害虫駆除いたします。ご用命の際は是非」
「だから違うって!」
「どれどれ……花を守る活動家、ナショナル・トラスト……」
「だーかーら」
もしかして、わざとやっている?疑ってしまったが、あれ、でもちょっと待って。フランはもう一度記事を見る。
「……ってそう!それであってる!」
フランが見つけたのは花に関する記事だった。季節が季節だけにぴったりの広告だ。
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