3.ワームムーン

三月の朝と新聞記事

また一つ、死体が転がっていた。

深夜二時過ぎ、心臓と目を撃ち抜かれた死体は、犬小屋の中に半ば無理やり入れ込まれていた。


──へぇ、今度は動物虐待をした男を懲らしめたんだ。


犬小屋の屋根には何やら文字が書かれている。


"Pest Control"


赤い、べっとりとした液体──血だ。

素晴らしい。今回も完璧な仕事ぶりだ。と、拍手をする。


──あぁ、自分も、この人のような害虫駆除人になれないものか。

心から望んだ。


望んだから、この希望を叶えてくれる人に出会えたんだ。

死ぬ準備ならできている。


──できることなら今すぐにでも、貴方様に成り代わりたい。

 

 

三月ともなると、朝晩は寒い日が続くが、真冬の刺さるような冷たい空気は少しだけ和らいでいた。


植物は芽吹き、生き物たちは冬眠から目を覚まし、地上へと帰ってくる。

新たな始まりを感じさせる季節の中、ルーナ探偵事務所はというと


「暇だぁ……」


相変わらず暇。

季節が移り替わろうと、この事務所に依頼がない事は変わらなかった。


「おはよー」


助手のフランも冬眠から覚めたように、身支度をしながら欠伸交じりでリュクレーヌの元へ現れた。


「あぁ、おはよう」


挨拶をしながらリュクレーヌは紅茶を二人分のカップに注ぐ。予め多めに淹れていてよかった。


「ん、紅茶」

「ありがと」


リュクレーヌから紅茶を貰い、礼を言うと、そのまま口に運ぶ。目が冴えるようなペパーミントのフレーバーティーは低血圧で朝が苦手なフランにはぴったりだった。

紅茶を飲みながら、既にリュクレーヌが読み終わった新聞を読む。

活字は苦手だけど、何か事件が無いか、ファントムに関する手掛かりは無いか、調べるためにも真剣に目を通していた。


「あ」


ふと、ある記事に目が留まった。何かに気づいたのだろうか。


「ねぇ、リュクレーヌ」


すぐさま読書中のリュクレーヌに声をかける。


「ん、何?」

「ちょっと見てよこの記事」


フランはデスクの上に新聞を広げ、当該記事に指を指す。


「えーと、宝くじを当てる方法教えます。これでアナタも億万長者!」

「違うよ、そこじゃない」


だが、リュクレーヌはフランの指差した方とは関係ない記事に目を向けていた。


「えー?害虫駆除いたします。ご用命の際は是非」

「だから違うって!」

「どれどれ……花を守る活動家、ナショナル・トラスト……」

「だーかーら」


もしかして、わざとやっている?疑ってしまったが、あれ、でもちょっと待って。フランはもう一度記事を見る。


「……ってそう!それであってる!」


フランが見つけたのは花に関する記事だった。季節が季節だけにぴったりの広告だ。

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