トップオペラ歌手の欲しかったもの
「フェステリアさん……」
フランが掠れる声で声をかける。
すると客席のほうから「フェステリア!?」と驚きの声。会場はざわつく。
「あー、落ち着け!あれはマスカ。フェステリアのマスカだ」
混乱する観客たちにリュクレーヌは駆け寄って、状況を説明した。
「そんな!あの化け物がフェステリアだっていうのかよ!」
「冗談じゃねぇ!」
状況はより悪化してしまったが。
「あー……もう……フラン!とっととケリつけてくれ!」
「えぇっ!?そんな事言ったって……うわっ!?」
吹雪が辺りを凍らせる。ステージは霜と雪と氷で真っ白だ。床が滑ってこのままでは戦いにくい。
それでもフランはフェステリアの名を呼んだ。
「生きている中で感動を残すあなたが……どうして死を遺すなんて」
歌で感動を与えるオペラ歌手が自殺で悲しみを与えた理由、それは
「ずっと、知りたかったのよ。私を応援する人が、私の何が好きで、何を応援しているのか……」
「……それは、どうして?」
「薄々、気づいていたのよ。ファンの中に、私の事を厭らしい目で見ている奴が居るって事に!」
「っ……」
冷たく、摩擦の無い床にフランは叩きつけられる。
老若男女、様々な人間に愛された彼女のファンの中には、彼女をいかがわしい目で見る者もいた。
彼女自身、そういったファンの言動を何度か目の当たりにし、その度に傷ついていた。
「私は歌手なの!純粋に歌を聴いて欲しかった。歌さえ褒めてくれれば後は何もいらなかったのに……」
麗しい美貌より、誰もが羨むプロポーションよりも、何より歌を聴いてほしかった。歌さえ、聴いて貰えればよかったのに。
だが、彼女の想いとは裏腹に、「絶世の美女、フェステリア」という看板を彼女に背負わせる事になる。ファンも、劇場も。
怒りからか、フェステリアの腕の力はぎりぎりと強くなる。
「でも、あの人だけは違うと思っていた……」
あの人、心当たりがある。彼女の一番のファン。
「……ドクトルさんの、事?」
「えぇ……彼は私の歌う姿を描き、歌を褒めてくれたわ。この人なら、私の事を純粋に応援してくれているって……そう思っていたの」
「だから……マスカに……」
「私は、彼の本当の気持ちを知りたかった。彼が純粋に、心から私の歌を好きだって。確かめたかったの!」
フェステリアがマスカの筐体にドクトルを選んだ理由は、彼を純粋に信頼していたから。
まるで、今、舞台一面に広がっている雪のように真っ白な感情で。
「けど……彼も、私の事を穢れた目で見ていた。悔しかったわよ!私の事を純粋に好きでいてくれる人は居ないの!?」
フェステリアの純粋な期待は、裏切られた。白い雪は土足で汚されてしまったのだ。
「そう思ったから、派手な殺人に見せかけた自殺をして、他のファンの本心も知ろうとした……って事か」
一連の会話を聞いた、客席のリュクレーヌは納得して俯いた。
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