自己顕示欲と代償

「なぜ、あんなに画びょうだけが、壁に刺されていたのか?絵が貼ってあったのなら分かるんですけど……なんか絵が貼ってあった形跡はありますし」

「僕は画家ですからね。気に入らない絵は全部取ったんですよ」

「へぇ、じゃあこれも?」


リュクレーヌは一枚の絵を見せる。それは、フランが拾った絵だった。


「!?っ……それは!」


「よく描けていると思いますよ?フェステリアさんのいかがわしい絵」

「やめろ!!それを!見せるな!気持ち悪い!」


「やっぱり……返せとは言わないんですね?」

「うっ……それは」


普通であれば、自分の絵を、まして恥ずかしい絵を見せられたとすれば返せというはず。


だが、彼は「見せるな」と叫んだ。そして「気持ち悪い」と蔑んだ。

ならば導き出される答えは一つ。


リュクレーヌはドクトルに向けて「フェステリアさん」と声をかける


「貴方は、このような絵がドクトルさんの部屋の壁に大量に貼ってあったことにショックを受けた」


「やめろ」


「もともとあなたは自分を応援してくれていた一番のファンの心の中を知りたくてマスカになったんでしょう?」


「やめて……」


「しかし、そのファンが自分に向けていたものが汚らわしい感情だったのが許せなかった」


「……」


「だから、派手な殺人を装って、他のファンの心境も知ろうとした」


覗こうとしたファンの心に絶望し、こんな派手な自作自演を行った。

悲しむファンの姿にはさぞ満足しただろう


あぁ、私、愛されている──と。


「……悪い?」


先ほどまでとは目つきが違うドクトル、いやフェステリアがこちらを向く。


「認めるんだな……マスカだってことを」


「えぇ、そうよ。それが何か?」


「……本当に、フェステリアが……マスカになったのか」

「フラン。お仕事だ」

「分かってるよ、リュクレーヌ」


フランは銃を構えた。

彼の仕事はこのまま引き金を引いて、彼女に弾丸を打ち込んで、魂を解放する事。


ズガンと重たい音がする。命中。フェステリアはドクトルの皮を脱ぎ捨てマスカへと変貌した。

氷でできた歯車と蒸気の代わりに冷たい冷気を放つそれは、正に氷のマスカだった。

同時に、客席と舞台を隔てていた幕も破壊される。さぁ、ショーの始まりだというように。

客席の観客たち──事件関係者が初めて目の当たりにしたのは、変わり果てたフェステリアの姿だった。

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