遅効性の毒の正体
探すまでもなかった。図体の大きなドクトルはあっさりと見つかる。
「はは、探偵さん……い、いやぁ……迷子になっちゃって」
「残念ながら、舞台裏への道はネズミ一匹入れないように施錠しています」
「そうそう、施錠されていた裏道で入るしかなかったんですよ」
「裏道……ねぇ。この屋根の穴の事ですね」
「な、何を言ってるんですか!」
「服に雪。大量についていますよ」
ドクトルの服には雪が張り付いていた。屋根を伝い天井の穴から侵入した証拠。
「これはたまたま転んだだけで……だいたい、屋根から入る必要なんてないでしょう!」
「そもそも、貴方を通さないように、スタッフさんにはお願いしているんですよ」
「っ……」
「それなのに、ここまで来ることが出来た。天井の穴を通ったから」
先ほどのトリックを自ら証明してしまったというわけだ。
「貴方がマスカなんでしょう?」
「馬鹿な……そんなはずある訳ないだろう!」
しかしながら、白を切るドクトルにリュクレーヌはため息をついた。
「貴方は、十日ほど前フェステリアさんからチョコを貰いましたね、それを食べた」
「えぇ」
「そして、その後暫く下痢を起こし、舞台に行くことが出来なかった」
「その通りです」
「その下痢の原因、チョコに毒が入っていたからなんですよ」
「毒!?そんな、食べた時は生きていたのに?」
フランは疑問を投げかける。
もしもチョコに毒が入っていたのならば、ドクトルはその場で死ぬのでは?と。
「テングダケ」
ぽつりとブラーチが零したのはキノコの名前。
「そう、この毒の原料になっているテングダケは遅効性の毒です」
テングダケは口にしてから十時間ほどで中毒症状が出て、一週間ほどかけて死に至る毒であり、すぐに症状が出るものでは無かった。
「だからブラーチさんがチョコ食べた時に気づいたのか……」
「そうして、苦しみぬいて亡くなったタイミングを見計らってフェステリアさんは自殺。ドクトルさんに憑依します。」
「でも、どうして……彼女が僕に成り代わっている証拠なんて!」
「僕たちがドクトルさんの家に行った時、疑問に思ったことがあるんです」
「え?うちに特に変わったことなんて……」
「画びょうです」
ドクトルの部屋の壁中に刺さっていた画びょうの事だ。
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