トップオペラ歌手の自作自演

「確かに……そうだが」


「一連の犯行は劇場が閉まっている時間に行われました。じゃないと照明がついている間に首を包んだ雪玉が解ける。恐らく事件前日の夜中でしょう」

「そんな、建物は完璧に施錠されてるんだぞ!」


侵入なんて不可能だ。と。

しかし、彼女なら可能であると、リュクレーヌは話を続けた。


「完全に施錠された劇場にどうやって入ったのか?それはもう一つの雨漏りが関係します」

「雨漏りか……確かに舞台裏の屋根に穴が開いていて……」

「マスカはその屋根から侵入しました。穴をあけて侵入。マスカなら高い所でもへっちゃらですからね、飛んだんでしょう」


「だとしても、首はどうやって切ったんだ。あのナイフで切れるわけない」

「それも、マスカなら出来てしまう。人を殺しますからね……首を斬ることくらい容易いですよ」


フェステリアは彼女自身の力で死体の首を千切った。

だから現場に首を斬ったとされる凶器は残らなかった。自然な事である。


「そして盗んだナイフで胸を刺す……これで犯行現場の完成です」


予め盗んでおいたナイフをフェステリアが死ぬ直前まで持ったままなら、この状況がたやすく完成してしまう。


「心臓まで行ってなかったのは、死後硬直の最中だったからか」

「そうそう!そういうこと!マスカの力があろうともそこまでの事は考えていなかったみたいだな」


彼女が死体を損壊したこと、いや、彼女のマスカではないとこの状況を作り出されなかった事は証明できた。

ただ、ラルファは苦い顔。

何故なら、動機が分からないから。


「どうして……彼女はそんな事を」

「首を斬って、劇的な死を演出したのは彼女の承認欲求や自己顕示欲の強さでしょうね」


あっさりと言い切る。

彼女の承認欲求と自己顕示欲には他の歌手も苦言を呈していた。


「二番手歌手のナイフを奪い、嫉妬を理由に無残に殺された悲劇のヒロインを演出したかった」


何とも悲劇的な殺人事件。それを自作自演した張本人。


「そうでしょう!フェステリアさん?」


いるはずのない人物の名前を告げる。何かに気づいたリュクレーヌは一度咳払いをする。


「あっ、失礼……今はドクトルさんか」


フェステリアの魂が入った筐体である正体を告げた。

そうして、舞台裏の方に向かい、声をかける。


「ドクトルさん。いるんでしょう、舞台裏に。ここからしか入る事が出来ないようにしましたからね」

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