遅効性の本命チョコレート
丁度、事務所のドアが開いた。
「ごきげんよう!」
先ほどまで話に出ていたクレアの姿があった。
「噂をすれば……」
「クレア、何処に行っていたの?」
クレアは笑顔で鞄から綺麗に包装された箱を出した。
「皆さんにチョコレートを用意してたの!はい」
あぁ、そういえば先日はバレンタインだったな。
全員分のチョコレートを用意していたという事か。リュクレーヌは納得した。
「わぁ!ありがとう」
「せっかくだし食べるか」
「じゃあ、僕お茶淹れてくるよ」
フランはキッチンの方に向かった。
「ん?ブラーチだけなんか包み違う……」
「あっ……ブラーチさんには、手作りを……」
「……ふーん」
リュクレーヌはニヤッとした笑顔をブラーチに向けた。
「?まぁいい。頂くぞ」
ブラーチは包みを開ける。
そこに、紅茶を持って、呆然と立ち尽くしているフランが「手づ……くり?」と言葉を零した。
「おう、フラン。羨ましいか?」
「いや……そうじゃなくて。ブラーチさん!ストップ!食べちゃダメだ!」
「ん?」
フランの制止をよそに、ブラーチはチョコレートを一粒、口に運んだ。
「食べ……ちゃった」
リュクレーヌはフランの様子がおかしい事に気づく。
ブラーチに背を向けてフランとリュクレーヌはひそひそ話をした。
「おい、何か問題あるのか?」
「いや、ココだけの話、クレアは料理が壊滅的に苦手なんだよ……」
「俺より?」
「うん。でも本人は自信満々だから……」
そーっと、振り返って二人はブラーチの方を見る。
ところが、ブラーチは口角を上げている。
「美味い。店に売ってそうな味だ」
「よかった!今日の時間を使った甲斐があった!……あ!私、用があるから行くね」
クレアは事務所から立ち去る。本当にチョコを渡しに来ただけだった。
「……え?ブラーチさんってバカ舌?」
「そんな事は無いはず……」
ブラーチとの付き合いはそれなりに長いリュクレーヌでも彼が味覚音痴だとかいう事はなかったという。
ところが
「うっ!?」
ブラーチが突然口を塞いで蹲る。
「あ……後味が……なんだこれ!?うぷ……」
「ブラーチさん!?しっかり!!」
フランがブラーチを抱えて叫ぶ。
「遅効性の……うぐっ」
「ブラーチさぁぁぁぁんっ!!!」
ブラーチは、倒れた。
ただ、息はしている。命はある。
あまりの不味さにショックを受けた。それだけだ。
倒れたブラーチを眺めながらリュクレーヌはぶつぶつと独り言を言っていた。
「遅効性……あっ!」
「リュクレーヌ!こんな時に何独り言いってるの!」
「全部……分かった!」
「え!?」
分かった?何が?フランには分からなかった。
リュクレーヌはブラーチに近づき、背中を思い切り叩いた。
「おい!ブラーチ起きろ!」
「はっ……私は何を」
半強制的に力技で起こされたブラーチを見て、「ひ、ひどい……」とフランは呟いた。
リュクレーヌはコートを羽織る。
「二人とも行くぞ!」
「どこに!?」
「フェステリアの家だ!きっとそこに全ての答えがあるはずなんだよ!」
この事件の全ての答え。
その在処であるはずの、フェステリアの家に向かった。
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