絶対に見せてはいけない絵

「情報、ナシ!そっちは」


無駄足だった。その報告を、部屋の探索をしたフランにする。

まぁ、きっと彼からも同様の返事が返ってくるだろう。


「こっちも大した事なかった」

「やっぱりか……」


よく考えたら、部外者であるはずのドクトルがどうやって現場に入ったのか?

ただのファンが犯人であるという考え自体無理があったかもしれない。

リュクレーヌはため息をつく。


すると、フランが「そういえば」と鞄を探る。

出てきたのは一枚の紙。絵の様だ。


「強いて言うなら絵が落ちていて……捨てられていたから証拠品として一枚拝借したよ」

「ん……どれどれ?……えっ!?」


フランの持つ絵を覗き込んだリュクレーヌは固まった。


「ん?どうしたの?」

「フラン……」


リュクレーヌは頭を抱える。

それもそのはず、フランの持っていた絵は、東洋でいう所の春画だった。


「未成年だろ!こんなの持ち出すなって!」

「えー、別に平気だし!」

「ダメ!」


しかもこの絵の女性、フェステリアにそっくりだ。

なるほど、ドクトルはフェステリアをそういった目で見た絵を描いていたのか。

となると


「立派な証拠品だよ!」


フランは強い口調で言う。


「う……そう言われると……でも、クレアには見せるなよ!」

「見せないよ!見せたら絶交されちゃう!」


二人は事務所に戻った。





二人が事務所に帰った後、検死を終えたブラーチも訪れた。

昼間ではあるが、本日得られた情報をお互いに話し合う。

もっともリュクレーヌの方は──


「何の成果も得られませんでした」

「はぁ……まぁ仕方がないか」


ブラーチはため息をついて手帳を開く。


「で、そっちはどうだった?」

「死因は、絞殺だった」

「絞殺!?ナイフ関係ないじゃん!」


やはり死因は刺殺では無かった。


「あぁ……倉庫のロープが凶器だ」

「ロープ……」


倉庫にあった大繩で首を絞められたことが死因であった。


「それで、だ。不思議なのはあれ程でかいロープを使っていたというのに一切争った形跡がない」

「証拠隠滅かな……?」


フランが呟く。

大きなロープを使うとなれば、フェステリアも逃げようと抵抗したりするのではないか。

もし、争いがあった場合、フェステリアの体に引っかき傷──それこそ、フェステリアの爪に容疑者の皮膚が付着していたりはしないのだろうか。

リュクレーヌは問う。


「いや……被害者の体などにもそういう形跡が一切なかった」


全くもって争った形跡はない。

さすがに被害者の爪などに手をかけたりはしないだろう。

だとしたら、残された可能性は──


「……自殺?」


リュクレーヌが呟いた。

ブラーチも「あぁ」と同調する。


「でも、ちょっとまって?自殺だとしたら、誰が首を斬ったの!?誰がナイフを刺したの!?」


フランは慌てながら聞く。

しかし、リュクレーヌは落ち着いた表情で目を閉じる。


「……なるほどな」

「えっ、」


そして、ゆっくりと目を開けてニっと笑った。


「分かった!あと一つ除いて。」

あと一つだけ、謎が残っている。それ以外は全て分かったという。


「えっ、どういうことなの?リュクレーヌ」

「まぁ落ち着け……そういえばさ、クレアは?」


急かすようなフランを窘める。

それよりも、と姿を見ていないフランの友人の姿を探した。


「あぁ、今日は見ていないな」


彼女に慕われているブラーチすら心当たりがない。

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