本当の死因と画家の証言

一方、現場では、ブラーチが捜査官と検死を続けていた。


「相変わらず、首……酷いな」


斬首されたフェステリアの首を眺めて顔を顰める。


「ただ、あのナイフでこの傷は無いですよね……斧か何かで斬ったような」

「現場にそれらしい凶器は?」

「全く見つかりません……」

「どうやって首を斬ったのか……ん?」


何かに気づく。首元に付着したもの、これは──


「どうしました?」

「この首の傷……何か繊維みたいなものが混ざっている」


針のように細い、枯れた植物が傷口に刺さっている。


「本当だ……何でしょう?」


植物。それらしいものがこの空間にあるだろうか。

あった。

古びた大繩が。


「麻……か?もしかして!あのロープの!」

「という事は……」


縄が首に食い込んでいた可能性がある。

「死因が絞殺かもしれない。調べるぞ!」

「はい!」



ドクトルの家に向かう道中。

リュクレーヌはフランに一つ頼みごとをした。


「フラン、ドクトルの家に着いたら、俺が聞き込みをしている間、家の散策を頼む」

「……わかった。怪しいものがあったら調べるよ」


ドクトルが生きているとはいえ、聞き込みには行く。

手掛かりは徹底的に探りたい。

紙に書かれた住所に着いた。

リュクレーヌはドアをノックする。


「なんでしょう?」


小太りに髭の男が出てきた。服には絵の具が付いている。

きっとこの男がドクトルだろう。


「ドクトルさん。フェステリアさんの事件の件でききたいことがあります」

「警察ですか?」

「いえ、名探偵です」

「お引き取りください……」

「犯人を見つけるために貴方のお話が聞きたいんです!」

後ろからフランが強く言う。

「貴方なら、フェステリアさんの事を一番理解していると思うのです」

「……どうぞ」

一番、という言葉に負けたのか、彼はおずおずとした様子でドアを開けて二人を招いた。

「あっ……すいません、ちょっとトイレ」


フランはトイレに行くという。

勿論、これは作戦だ。トイレに行くと見せかけて、部屋の散策を行う。

紳士的なやり方では無いが、いたしかたない。

リュクレーヌは居間に招かれる。

何か、変わったもの……は無いか。

ただ、壁に大量の画びょうがあるが、画家の彼ならば普通かもしれない。


「すいません。うちの助手が」

「いえいえ。それで、お話というのは?」

「あぁ、フェステリアさんの事件で何か心当たりがあったりしないかなと」


フェステリアという名前を聞くと、悲しげな顔をしてドクトルは俯いた。


「僕もただのファンですから……劇場内部の事は分かりません」

「内部の犯行だとお考えで?」

「彼女……他の歌手にいじめられていたから」

「なるほど」


まさか、歌手の内部事情まで知っているとは。


「そういえばチョコをもらったとかいうのは」

「あぁ、みんなに配っていたんですけどね。僕だけ特別に食べさせて頂きました。美味しかったなぁ」

「……分かりました。ありがとう」


結局、新たな情報は手に入らなかった。

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