ファンたちの証言

翌日。劇場前には多くのファンが詰めかけている。


フェステリアを悼むための花を持つもの、号泣するもの、項垂れるもの、様々だった。


「ねぇ、本当に大丈夫?」


フランはリュクレーヌの服の裾を引っ張りながら問う。


「何が?」

「だってファンに聞き込みなんて……悲しんでる中そんなことできるのかな…って」


ここに居る多くのファンがフェステリアを悼むために来ている。勿論、彼らは深く悲しんでいて、傷ついているはずだ。

この重苦しい空気の中に入り、「聞き込みをさせてください」なんて言えるのだろうか?あまりにも無神経すぎやしないか?

フランは心配だった。


「大丈夫」


けれども、リュクレーヌは臆しない。


「見ていて」とフランに言って、人だかりの中へと向かった。


花が手向けられた場所の前まで行き、手を合わせ、フェステリアへの追悼の意を表す。

──助けてあげられなくて申し訳がない。

懺悔するような様子をフランは少し離れた場所で見るしかなかった。


「お前、誰だ?」


ファンの一人が問う。

思わず「あぁ、すみません」とリュクレーヌは顔を上げた。


「見ない顔だな……記者か?」

「だったら帰れ……俺たちの心の傷口に塩を塗り込むような取材はお断りだ」


睨みつけられるような視線が刺さる。それでも「いえ」とリュクレーヌ。


「僕、探偵でして」

「探偵?」

「正しくは名探偵ですが」

「はぁ……胡散臭い奴だな」


「実は、フェステリアさんの事件を捜査してまして……犯人逮捕の為にお話を聞かせてもらえますか?」


「犯人なんて……わかんねぇよ……」


犯人を捕まえたい。自分達の愛した歌手を殺したやつだ。できる事なら同じ目に遭わせてやりたい。彼らにはその思いがあっただろう。


「ここ最近、何か変わったこととかでもいいですよ」

「変わったこと……」

「ちょっとした事でかまいません」


日常とのちょっとした変化が事件解決に繋がるかもしれない。それを聞きだしたかった。


「そういえば……ドクトルが十日ほど前に来てなかったな」

「ドクトル?」

「あぁ、フェステリアの熱狂的なファンだよ。ファンの中でも一目置かれてる」

「全公演見に行ってなんぼ、みたいな奴な」


ファンの中でもトップに君臨するような奴と言われたドクトル。

全公演見に行くはずの彼が来ていなかった。それをファンたちは疑問に思ったという。


もしかして、彼がフェステリアを殺して、自殺した?


「チョコ渡し会でもフェステリアにあーんしてもらっててさ……やっぱり、認知されているだけあるよな」

「あいつ、絵上手いもんなー。うらやましい限りだよ」


絵が上手いのが何に関わるのか、リュクレーヌは首を傾げる。


「絵?」

「あぁ、ドクトルは画家の卵で、フェステリアの絵をよく描いてるんだよ。彼女もその絵を気に入っててさ」

「ふむ……で、そのドクトルさんは事件当日の公演には……?」

「あぁ、来てたよ。十日前俺が家に行った時は腹下してて大変そうだったけど、すっかり元気だった」


彼は現在生きている。という事は自殺をしてはいない。


「それが……こんなことになるなんてな……今日もショックで来てないんだろ」

「……ドクトルさんにお話を聞くことはできますか?」

「あぁ、犯人逮捕の為なら喜んで協力してくれるはずさ。ここだよ、あいつの家」


そう言って、住所を書いた紙を渡された。


リュクレーヌは「ありがとう」と告げて、陰で見ていたフランに合流した。

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