劇場支配人の証言



「大丈夫か?」とフランを心配しながら奈落から舞台へと戻る。


「なんとか……」


今にも吐きそうといった表情をしていた時よりは多少マシになったよう。


「フランは死体とか駄目なの?」

「いや、普通のは大丈夫なんだけど」


アマラという仕事柄、死体は見慣れているはずだが、

流石に意図されて首を落とされた死体は初めてだ。

リュクレーヌですら「グロい……」と苦い顔をしたわけで。


「あそこまで酷いのが平気な方がすごいよ……」

「お子様には刺激が強かったかもな。無理すんなよ!」


リュクレーヌは笑いながら、フランの背中を叩いて子供扱いをした。


「だから!子供じゃないって!」


フランは本日二度目の子供扱いに、抗議した。



2人は事件現場である舞台の方に戻っていた。


「あれ?誰かいる」


フランが初老の男性を見つける。リュクレーヌがそれに近づいて声をかけた。

初老の男性は優しく微笑んでお辞儀をする。


「あぁ私はこの劇場の支配人です」


彼は劇場の責任者だった。先ほどまで取り調べを受けていたという。


「なるほど、申し訳ないんですけど……僕にも少しお話を聞かせてもらってもいいですか?」

「えぇ、私でよければ」

「ありがとうございます」


リュクレーヌは微笑んで礼を言った


「まずは……フェステリアさんについて聞かせてもらっていいですか?」

「恨みを買っていたとかそういった事ですかね?」


それなら先ほど警察に聞かれましたと答える。

だが、リュクレーヌたちが聞きたい事は少しだけ違う。


「うーん、というよりも誰かに羨ましがられていたとかそういう事ですね」

「あぁ、それは無いと思いますよ」

「ナンバーワンオペラ歌手なのに?」

「彼女、プライド高くてストイックで自分にも他人にも厳しくて……劇場の人間ともプライベートではそこまで付き合い有りませんでしたし」

「ほう」

「陰で努力するタイプでした。昔は現場でも知っている人が少ない場所で練習したり……」


フェステリアが練習していた場所。リュクレーヌは「もしかして……」と心のあたりのある場所を唱えた。


「奈落に通じる倉庫とか?」

「!どうしてそれを……」


支配人は驚いている。それもそのはずだ。現場の人間でもあの倉庫の存在を知る者は少ない。それを部外者のリュクレーヌが知っているなんて。


「遺体の胴体部分がそこで発見されました」

「そういうことでしたか……えぇ、あの場所でも練習していました」

「彼女は正に孤高の歌姫でしたね」

「孤高……」

「えぇ、そのあたりは他の歌手に聞いてみてはどうでしょう」


彼女を取り巻く人間関係。それは彼女の同業者である歌手達に聞いた方が早いのでは?支配人は提案した。


その提案にリュクレーヌも「なるほど……」と納得した。

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