助手宛ての手紙

名探偵リュクレーヌの朝は早い。早いといってももう九時を回っている。

まぁ、住み込みで雇っている助手よりは早起きだ。

まずはポストに入った郵便物の確認。


「寒寒寒っ!へっくしょい!!」


二月の朝は寒いから一瞬で取り、すぐに室内に戻る。


「ん?」


手紙の中に、自分宛てではないものを見つけた。

あぁ、フラン宛ての手紙もうちに来るようになったのか。となれば本人に渡さなければ。

リュクレーヌはフランを呼ぶ。


「おーい、フラン。手紙来てる」

「ありがとう」


珍しく早めに目を覚ましたフランに手紙を渡す。

すると宛先を見て、フランは手紙をペーパーナイフで開封した。


しかし、フランに手紙……いったい誰からだろう?リュクレーヌは興味本位で訊いてみた。


「誰から?」

「あぁ、アマラの訓練所時代の友達から」

「じゃあ、アマラなのか?」

「いや、この子は途中で訓練所やめちゃって……でも、仲よかったから今もこうやって連絡してるんだ」


「へぇ、いい友達なんだな!」

「うん!」


アマラになるためには訓練がいる。その為の施設があり、訓練所内の仲間は所謂学校での同級生のようなものだろう。

訓練所を出た後でも縁が続いているのは微笑ましい。まして訓練所を辞めた子と、だ。



「何が書いてあるんだろう……へぇ、ふんふん……」


フランは黙々と手紙を読む。

一通り読んだ後、封筒の中をもう一度確認して、チケットのようなものを取り出した。


「リュクレーヌ、明後日お休みもらってもいい?」

「ん?用事か?」

「うん、友達がオペラ見に行こうって」


取り出したのはオペラのチケットの様だ。フランは手に取ってリュクレーヌに見せる。

友人からの誘いだ。たまには息抜きだって必要だろう。リュクレーヌはフランの申請を快諾した。


「おぉ!行ってきな!どうせ依頼もないし!」

「そこはもう少し危機感持とうよ……」


とは言え、先月の占い師の件から依頼がないのは事実だ。

今はとにかく英気を養う。フランに家事ばかりやらせる訳にもいかない。


「まぁ、楽しんで来いよ!夕飯とかは……俺の方で何とかする!」

「どうせクッキーで済ませる気でしょ」


フランは笑いながら、お見通しとでも言いたそうだ。

リュクレーヌは図星を刺され「ぎくり」とした表情を見せる。


「大丈夫だよ。そのあたりは日持ちするもの作り置きしておくから」

「ありがとう!……ていうかフランもオペラとか好きなんだな」

「うーん、僕がというよりクレアが好きなんだよね」


リュクレーヌは少し難しい顔をした。


「クレア……?」


「あ、その友達の名前……え?何、知っているの?」

「いや……そうじゃなくて……」


リュクレーヌは首を降る。そして確認するような瞳でフランを見た。

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