彼らの救済

「さっきも言ったが、俺達の仕事は、マスカに閉じ込められた魂の救済だ」


マスカを倒すのではなく、マスカに閉じ込められた人間の魂を救う。

ルーナ探偵事務所の最大の仕事だった。


「……と、言っても。まだ俺の事疑ってたら無理か……」


自信は無かった。


自分の事をファントムだと言い張るフランが、名ばかりでなく共に同じ目的のために働く助手として信頼してくれるかを。

しかし、フランは首を振った。


「……いや。もう疑ってないよ」


迷いのない瞳を向ける。


もう大丈夫。


いつの間にか、銃をしまい、リュクレーヌの方に笑いかけた。


「貴方は、悪魔のファントムじゃない。人間の、リュクレーヌだって分ったよ」


フランはそう言い切った。


──悪魔の商人なんかじゃない。


人違いで撃ったのに、働き手と住処を与え助けてくれた恩人。

そして、着せられそうになった濡れ衣を晴らしてくれた探偵。

リュクレーヌ・モントディルーナは信頼できる人間だと。


だから、彼の事も咄嗟に助けたんだ。


「なら、よかった」

「これから、一緒にマスカに閉じ込められた魂を救おうね」


二人の目的が同じ方向を向いた瞬間だった。


フランの迷いを無くした表情に安心をし、リュクレーヌはにこりと微笑む。


安心したのも束の間、「それにしても……」とリュクレーヌは話題を変える。


「ファントムの奴……取材に応じたってことは……もしかすると……」


出てくるのはぶつぶつとした独り言。その様子をフランは怪訝な顔で覗いた。


「どうしたの?独り言なんて言って」

「いや、都市伝説の事なんだけどな。都市伝説のままにした方が良いかもしれないな、って」


メリーが取材したファントムの都市伝説。もしも、これが公になればまずい事になるかもしれない。

と、リュクレーヌは推理したが、フランには理解できなかった。


「えっ!?どうして……せっかくメリーさんが重要な手掛かりを遺しているかもしれないのに」

「だからなんだよ。メリーさんは大枚を叩いて仮面を買っている。」


ファントムはメリーから大金を受け取り、マスカを売った。

この事実から、ファントムは本当に悪魔の商人で、儲けを狙いとしているなら。


「もし、このビジネスがファントムの狙いなら……メリーさんを広告塔に使おうとしたんじゃないのか?」


新聞にマスカの都市伝説が載ることになると、都市伝説が事実となり多くの人がマスカの真実を知る。


真実を知った者の中に、転生を望む人が居たとしたら、その人はファントムと契約し仮面を買う事になるだろう。


「つまり……マスカの事が公になると、今よりたくさんの人がマスカにされちゃうかもしれないって事?」


 ようやく事が分かったフランにリュクレーヌは「そうだ」と言う。


「だからこそ、この都市伝説の真相は俺達だけの秘密な」


都市伝説とされた事実を本気で信じる者は世界にたった二人しかいなかった。けど、二人いれば十分だ。


──信じているのが僕達だけでも、きっとファントムを倒せる。


確信したフランは「うん!」と頷いた。

 

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