右か左か偽物か
「ニセ……モノ…?」
どういう事?と訊く前に、リュクレーヌが「フラン」と呼びかける。
「銃は使えるか?」
「あぁ、うん…いつも通り」
「引き金は引けるか?」
「うん。危ないから引かないけど……」
銃弾を転送。
いつもと何も変わらず、使い慣れたスチームパンク銃を扱う。
「いいか、そもそもフランがマスカなら、アマラとしての資格を失う。それを失ってないって事はこの子はマスカではない」
「あ……」
フランが呟く。
「俺を撃ったのもこの銃だった。フランが俺を撃つ前にマスカになっていたら、俺を撃つことなんてできないんだよ」
アリバイが成立した。
そして、リュクレーヌはスピリウスの方を指さした。
「マスカは貴方だよ」
本当にマスカなのは、スピリウスであると告げた。
「そんな、占いが外れただけでマスカだなんて!猿も木から落ちるんです!」
だが、スピリウスは占いが外れたのはたまたまだと言い張る。
「白々しいな……貴方がスピリウスさん本人ではない決定的な証拠がある」
「そんなもの……あるはずが」
ない。と言いかけたスピリウスの希望を砕くようにリュクレーヌは言い放つ。
「利き手だよ」
と。
「本物のスピリウスさんは右利きだ。俺とフランが見た昨日の貴方は机の右に虫眼鏡を置いていたからな……」
「何を仰るのですか。私は右利きです!先ほど虫眼鏡だって右手で持ったでしょう!」
「あぁ、確かにそうだった」
「ほら見なさい。何が決定的な……」
「カード」
リュクレーヌはタロットカードを指さす。
「タロットカードきった時、貴方は右手で山札を支え、左手できったよな」
「あっ……」
そう、右利きであればカードを左手に持ち右手でシャッフルするはずなのだ。
だから、占い師に憑依した人物は左利きだと言える。
リュクレーヌはその正体を、告げた。
「そうだろ、メリーさん?」
「…メリーさん!?って……新聞社の?」
「あぁ、スピリウスさんに憑依したマスカは彼だ」
左利きの人物はメリーである。
リュクレーヌは断言した。自分の推理に自信を持って。
フランには根拠が分からず、訊く。
「でも、どうしてメリーさんが左利きだって分かったの?」
「俺がインクで手を汚したとき、左手が汚れただろ?」
「そう……だったかも」
メリーと握手をした時、右手に荷物を持っていたリュクレーヌは左手を差し出した。
「ということは握手をしたメリーさんも左手を握った、そしてその左手のちょうどこのあたりにインクがべったりついていた」
この辺りと言いながら指の第二間接あたりを示す。
そこにインクが付いた理由。それは
「もしかして!」
「そう、メリーさんは左利きだから文字を書き続けると左手の小指球が汚れるんだよ!」
小指球。
右利きの人が鉛筆などで縦書きをした時に真黒になる部分だ。
左利きの人が横書きをした場合は乾ききっていないインクが付いてしまう事だってある。
つまり、あの握手の時についたインクからメリーが左利きであることは明らかになってしまったのだ。
「証拠としては、充分だろう?」
マスカの正体は明かした。推理は終了。
片手を天に向け、してやったりという表情をリュクレーヌは見せた。
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