恐怖と自衛
フランは恐怖していた。今度は自分がリュクレーヌに命を狙われるのではないかと。
もしも、最悪の状況に直面したとしても、応戦できるように、銃を携えていた。
「……そうだよ」
「やっぱりな」
「だって、変だよ。殺されかけた相手をわざわざ家に招いて……住み込みで働かせるなんて。どうかしてる」
確かにフランはリュクレーヌの命を狙った。完全に殺す気だった。殺意満々の少年と平気で住居を共にしようとしているなんて自殺行為だ。
いざ夜になると、フランも寝付けなかった。
「自分は殺されてしまうのではないか?」という恐怖に怯えて。
「どうして……僕を雇ったの?」
寒さか、はたまた恐怖からかフランは震える声で訊く。
「……」
「アマラだからってだけ、じゃないでしょ?」
言いにくい理由なのか、リュクレーヌは黙秘した。
しかし、フランは諦めない。尋問を続ける。
「……あの都市伝説を、信じていたから」
「都市伝説……あぁ、マスカやファントムのこと?」
「あぁ」
「それが、何か関係あるの?」
リュクレーヌの口からようやく出てきた理由は都市伝説の事。
フランが都市伝説を信じていた事。それが決め手だったようだ。
しかし、何故?フランは尋問を続けた。
「……俺はファントムを倒さなければならないんだ。マスカを壊し、奴をおびき寄せる……それが俺の狙いだ」
「ファントムを……」
「つまり、ファントムの事を信じているかつ、マスカを壊すことの出来るアマラの君が丁度いい人材だったんだよ」
「そういうことだったんだ……」
なるほど。理由は分かったし、非常に合理的なものだ。
フランは、返ってきた予想以上にシンプルな答えに、疑っていたことを少しだけ申し訳なく思った。
恐縮するフランを察したのか、今度はリュクレーヌが口を開いた。
「それにしても、俺以外にもこの都市伝説信じてる奴がいるなんてな」
少しだけ気になっていたこと。発信元不明の都市伝説。
証拠や信憑性はおろか、知名度もまずまずの知る人ぞ知るものだったのに、フランのような少年が知っていて、ましてや信じていたなんて。
リュクレーヌの中で魚の小骨のように引っかかっていた。あまりにも出来すぎた話ではないか、と。
「あ……その都市伝説……僕が流したんだよね」
「はぁ!?」
信じていたも何も、発信元がフランだった。なるほどこれならば合点がいく。
ただし、冷静な判断が出来ないほどにリュクレーヌは驚いていた。
「本当の事を発信しなきゃ、って……でも、誰も信じてくれなかった」
だが、都市伝説は都市伝説でしかなかった。
フランの言う事を本気で信じる者は居なかった。
都市伝説には科学的な根拠はなく、人の皮を被ったよくできた他国の兵器という妥当で無難な推測が世間に広がっただけだった。
「どうして、そこまでして……」
オオカミ少年になったとて、都市伝説を流すメリットがフランにあるのか?
それに、フランが言った「本当の事」。これが都市伝説を指すとしたら、どうして彼が「本当の事」を知っているのだろう。
その疑問は、案外あっさりと白状されることになる。
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